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第12回:相手に伝わらないのは、相手をコントロールしようとしているから!?

第12回:相手に伝わらないのは、相手をコントロールしようとしているから!?

2026.08.27山中 真弓(活水女子大学看護学部 学部長)

知識や思考の枠組みが違う相手に、言葉は本当に伝わるのか

 第11回では、「相手に伝わらない」という出来事が起きたことに対して、「何のために言語化するのか、何を伝えれば明確に言語化できるのか」を、書籍も参考にして、私なりに整理した考え方について書かせていただきました。5つの段階があり、第1段階が「看護としての価値の言語化」、第2段階が「価値があると考える私の思いの言語化」、第3段階は「看護の効果の言語化」、第4段階が「文献を根拠とした言語化」、第5段階は「とってもらいたい行動の言語化」と提案しました。
 しかし、このように自分で文章化して当時の出来事を整理してみても、すっきりしない感覚が残りました。そのため、さらにこのことについて考えるため、今井むつみ氏著『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』1)を読んでみました。するとそこには、「話せばわかる」は「幻想」かもしれない、と書かれていました。言葉を発する人と受け取る人の「知識の枠組み」が違い、「思考の枠組み」も違う。そのため、頭の中を共有することはできないとのことです。
 「言語化によって伝わる」と考えていること自体に、どうやら不足があるようです。この書籍を読んでいると、私自身が言葉により相手をコントロールしようとしていたのではないかという思いに至りました。

コントロールすることは悪いことではないが…

 改めて第11回で取り上げた事例を振り返ります。「プロセスレコードを使って、学生が自分の振り返りができるように教授する」という授業について検討している事例です。学生は、自己の振り返りが苦手とする傾向が高まっているから、どのように振り返ればいいのか、実際に書かせてみて実践できるようになることを目標にしている授業です。授業についての検討で、担当する教員に私からいくつかアドバイスをしましたが、授業では全く活用されませんでした。プロセスレコードが書けない学生もおり、自己の振り返りにはつながらなかったため、授業後に学生各自に個別指導をすることになりました。
 前回は、私の言語化に問題があると考えましたが、どうやら私は相手の教員に、私の思うような授業をしてもらおうとコントロールしていたようです。
 教育とは、「目的に向かって、意図的・計画的に対象の成長を促すこと」だと私は考えています。「意図的・計画的」「コントロール」という言葉はいずれも、自然に任せるのではなく、目的を持って道筋を立て、状況を自分で管理・調整しながら結果へ導くプロセスを指す、教育の現場で使われる概念です。したがって、コントロールしようとしていたことが必ずしも悪いことだったのではなく、今回の事例においては、私のアドバイスに相手の「成長を促す」という思いが不足していたのではないかと思います。

他人のことは、話してみないとわからない

 さらに気づいたことは、この教員は10年以上看護教育に携わっているということもあり、彼女がどのように成長したいと思っているのか、何を大切にしているのかを、私は知ろうとしていなかったということです。経験の浅い教員には面談で、キャリア形成の希望や何を大切にしているかを聞き取りサポートすることを考えますが、経験豊かな教員には、「自主的に成長していくだろう」という思いからそういったことを聞いてきませんでした。長く看護教育において管理者として務めていますが、自分の大きな課題に気づきました。
 なぜこのような思い込みがあったのか考えると、自分が「どう成長したいか、何を大切にしているか」が明確な看護教員人生を歩んできたため、経験豊かな教員はみんな自主的に成長するだろう、よりよい看護教育のために自ら考えて行動するものだろうと思っていたからだろうと思います。しかし、実際には一人ひとり背景や経験、仕事への向き合い方が異なり、私自身の価値観を無意識のうちに相手にも当てはめていたことに気づきました。自分が基準になっていたようです。いつも、学生に「患者さんをよく見て、なぜそうなるのか、その原因や背景を考えてみて」と話していますが、それができていない自分の姿がありました。 

  他人の考えていることや思っていることは、相手とコミュニケーションをとってみないとわかりません。これからは、周囲の人々がどのように仕事と向き合いたいのかを捉え、何を大切にしているのかを知ることを心がけ、コミュニケーションをとっていこうと思います。自分が伝えたいことに集中せず、相手を知るコミュニケーションを積み重ねていくうちに、言いたいことが少し伝わるかもしれないと思い、伝わらなくてもくじけず、あきらめずにいこうと思います。

引用文献
1)今井むつみ:「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? ―認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』,日経BP,2024

山中 真弓

活水女子大学看護学部 学部長

やまなか・まゆみ/国立療養所再春荘病院附属看護学校卒業。国立病院再春荘病院に勤務後、教員となり、その傍ら熊本学園大学社会福祉学部を卒業。厚生労働省幹部看護教員養成講習会を修了し、国立病院機構附属看護学校の教育主事や副学校長。その傍ら福岡大学大学院人文科学研究科教育・臨床心理専攻修了(教育学修士)。厚生労働省九州厚生局でも勤務。2025年4月より現職。休日の楽しみは娘とのショッピングやアニメ鑑賞。

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