私は最近、実習指導担当として朝から夕方まで学生とともに臨床におり、学生の指導をしていました。実習指導で臨床に出る直前は、精神的に落ち込むことが多く、ネガティブ思考に陥っていました。しかし、不思議なもので臨床に出ると、そんな自分の気持ちはどこかに遠くに行ってしまっていました。
1年生の実習を担当したので、病棟でのスタッフや患者さんへの挨拶の仕方やタイミング、病棟の廊下や病室での立ち位置など一つひとつ声をかけ、背中を押し、ときには学生を探すなどして、常に目が離せない状況です。また自分自身も病棟で調整に次ぐ調整で、スタッフと学生がスムーズに動けるようにするため気が抜けませんでした。おかげで何を落ち込んでいたのか忘れてしまいました。
ある学生の事例:インシデントレポートを書くことに納得しておらず……
そんな中、私の担当外の実習科目で実習を行っているグループの学生が、突然私の研究室に訪れました。少し怒っているような表情でした。学生の訴えは、「指導担当のA先生からインシデントレポートを書くように言われました。話しかけてはいけない人に話してしまい、現場の人に注意をされたんです。でも自分は、行動計画にその人に話すことを書いていたんです。それに、先生からは、その人に話しかけてはいけないとは聞いていなかったんです。おかしくないですか」という事でした。私は、状況がわからないため、まずは担当のA先生と話をするように促しました。しかし、行こうとしません。そのため、次は科目の責任者であるB先生に、なぜインシデントレポートを書く必要があるのか聞きに行くように言いましたが、またもや学生は行こうとしません。最後に「科目責任者のB先生の認識次第では、大事なことを伝え忘れた指導のA先生もインシデントレポートを書く必要があるかもしれないから、B先生に話しに行きなさい」というとやっと、B先生のところに行きました。
B先生と話をした後、学生は再度私のところにやってきました。「インシデントレポートを書かなければいけない理由は、私が行動計画には書いていた内容をA先生に相談・報告していなかったことでした。相談・報告せずに勝手にしてはいけないことをしていたことでした」と話しました。私はそれを受けて「じゃあ、そのことを中心に振り返って、次からどうするかを考えたらいいね」と返しました。しかし、まだ表情がすぐれなかったので「もしかして、このことで評価が下がると思っている? きちんと振り返れば、評価が下がることはないよ。評価基準をよく見てごらん」と伝えました。すると、学生はやっと納得して帰っていきました。
この事例を通して、私が考えたこと
この事例からいくつか考えることがあります。たとえば、なぜ学生は最初怒って私のところに来たのでしょうか。インシデントレポートを書くように言われましたが、自分は悪くないと思っており、レポートを書くことに納得していなかったということが考えられます。学生は、「行動計画に書いていることは実施していい」と思っていたのではないでしょうか。また、評価を気にしている様子からは、インシデントレポートをペナルティだと思っているということが推測されます。これらの反応から、学生にインシデントレポートを書く意味が伝わっていないこと、教員が学生にインシデントを振り返る視点を伝えていないということ、報告・相談することの大事さを伝えていないということが課題として挙げられると思います。
看護学生がインシデントレポートを書く意義は、「医療事故を未然に防ぐための客観的な状況把握」と「振り返りを通じて安全なケアを提供する能力を養うこと」にあると思います。このことが、学生に伝わっていなければ、インシデントレポートは個人の責任の追及やペナルティと受け取られるのではないでしょうか。また、意義がわかっていても、なるべくならインシデントレポートは書きたくないものです。であれば、インシデントを回避するための危険予知能力を向上させていく必要があります。そのためには、他者のインシデントから学び、自らのインシデントにも向き合い、振り返って危険予知能力を高めていく必要があります。このことを機会があるごとに学生たちに伝えていくことが大切ではないかと思います。
インシデントレポートは組織の「報告・相談文化」醸成につながる
指導する際、教員は学生に、インシデントを振り返る視点を伝える必要があります。学生は、インシデントが起きたときにも、自分の行動の何がよくなかったのかわかっていないことが多いです。なぜかというと、悪い結果が起きていないからだと思います。学生のそれまでの経験上、「実害はないが好ましくない状況」というものを指摘された経験が少ないのではないでしょうか。このような状況にある学生には、何を振り返るのか視点を明確に伝えなければならないと思います。教員の中には、視点を伝えるのは答えを言うようなもので、振り返る視点に気づくのも学習だと考える人もいると思います。しかしそれだけでは、ときとして今回の事例のような状況となり、学生の怒りを生むことになるのではないでしょうか。
今回の事例では、学生は行動計画を教員に報告・相談していませんでした。つまり、報告・相談がなぜ必要なのか、その意味も理解できていなかったと思われます。学生は、知識と経験が不十分ですから、実践するために適切な判断ができません。そのために指導者に報告・相談する必要があるのですが、何を報告・相談するのかがわかっていないことが多くあります。インシデント報告は、そんな学生たちに「何を報告・相談すべきなのか」を学ばせたり考えさせたりする機会となり、報告・相談する文化の醸成にもつながります。インシデントレポートが多い学校は、報告する文化が定着しているということが言えます。
私は、学生に限らず教員にも「報告・相談せずに実践して、よくないことが起きたとき、あなたは責任がとれますか」という問いを発します。そして、多くの人々の報告を経て組織として経験値を積み重ね、報告・相談する風土・文化が盛んな組織を醸成していきたいと思います。そうすることが、組織の縦と横の連携の強固さにつながると考えるからです。
久しぶりの臨床現場で、インシデントレポートを通じ、その指導のあり方と報告の重要性を再認識することができました。引き続きこういった指導を通じて、報告することの大事さを伝えたいと思います。





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