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特別編②:専門職と専門職が出会う時 ~勇者がお城を出てみたら、世界はお城だらけでした

特別編②:専門職と専門職が出会う時 ~勇者がお城を出てみたら、世界はお城だらけでした

2026.07.15酒井 郁子(千葉大学名誉教授/特任教授)

 いきなり、ラノベのようなタイトルで失礼します。もう7月も折り返し。夏休みの予定を検討してワクワクしている読者の皆さまもたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。皆さまが楽しく充実した夏を過ごされることを心から願っています。
 さて前回、なぜ専門職はお城をつくりたくなるのかな、というお話を書いたので、今回は、そんな居心地の良いはずのお城をなぜ専門職は出ようと思ったのか、お城を出たら何が待っていたのか、というお話を、まさしくラノベ風に書いてみたいと思います。

外圧がないとお城を出る気にならない

 居心地の良い城をつくり、内部を手入れするのに忙しいと、お城を出る気持ちになりません。という話を、前回しました。このお城は地盤が堅牢で、何があっても崩れない、という前提(というか幻想)のもとに成り立っています。ですが、そんなうまい話はない。
 お城の外はザワザワしているわけです。嵐、地震、魔王の誕生のうわさ、村人の失踪、これまでに出会ったことのないモンスターとの遭遇といった不穏な出来事が起きています。何よりもモンスターの性質が変わってきました。一つの城で対応できないほど、数が増えましたし、複雑な攻撃をしかけてきます。長期戦になりがちなので、単独の戦いではもう勝てなくなっています。そしてこのような混乱のなか、このままではだめだ、城の外に出てみよう、と思う人が現われる。
 専門職連携の実践と教育は、このようなスタートを切ることが多いのではないかと思います。なんか良くないことが起きて、このままではいけないと思う、もしくは、カリキュラムに組み込まれるなど、規制としてどうしてもやらなければならない、といういわゆる「外圧」が開始のきっかけとなるわけですね。ですので、専門職として極めていくことが王道だと教わって、そのとおりに生きてきた中堅やベテランの方々が、なんで今さらと思うことは、むしろ当然のことなのかもしれません。
 専門職として社会からの信用が厚く、かつ自分たちだけで完結できると思っている職種ほどその城は大きく、城壁は高くなるので、城の外の情報がなかなか入ってきません。お城を中心に物事を回していけば、回してる本人は困らないんですから、外に出る必要はないと思う、あるいはそういう発想に至らないわけで、これは自然なことです。自分たちが苦労してつくり、大切に磨いて守ってきた大きな城だからこそ、愛着もありますしね。一方、城が物理的構造として開放的だったり、城壁が低かったりすると、外で何が起きているのか、風のうわさも入って来やすい。なんなら自分の城のスタッフがほかのお城に行っちゃったりとかも頻繁に起きて、外界の影響を受けやすく、情報も得やすいということもあるかもしれませんね。
 お城の歴史、構造、規模、立地、状況によって変わってくるでしょう。

城を出る人を「勇者(仮称)」と呼ぶ

 外圧を感じた時、城を守ろうとして中にとどまる人と、何が起きているのか見て、なんとかしようと城から外に出る人と両方いると思います。前者を王様(仮称)、後者を勇者(仮称)と呼ぶことにします。王様のお話はまた機会がありましたら。王様は王様で大変ですよね。
 さて、勇者が自分のお城から出て、てくてく歩いていくと、モンスターがたくさんいる荒野にたどり着く前に、たくさんのお城が見えてきたのでした。外に出たらすぐに、荒野でモンスターとの戦いだと思っていた勇者は、このようにたくさんのお城があることに驚きます。
 自分の城のすぐ隣にも城があった。しかもその城は老朽化している、もしくは手狭になっているなど、課題が山積みで、どのお城も大変そうです。
 外に出てモンスターと戦って経験値を上げて強くなる、そして自分が世界を救えるようになったら自分のお城に帰ろうと思っていた勇者はものすごく驚きました。荒野を目前に、違うお城からやって来たほかの勇者たちに出会ったからです。
 ほかの勇者たちは、自分と同じように外に出なくてならないそれぞれのお家事情を背負い、荒野でモンスターと戦ってきたと言うのです。でも倒せなかったのだと。最初に述べたように、モンスターの性質が変化していたからです。もう単独攻略ができない難解なモンスターになっていて、戦いを終えた勇者は皆疲れていました。でも、どの勇者もモンスターを倒すためにがんばったことはわかりました。
 そう、自分だけが世界を救おうとしていたわけでなかったのです。世界を救おうとする勇者は、自分以外にもたくさんいたことを知りました。

勇者は経験値を獲得した。連携協働スキルがレベル2になった!

勇者同士が出会ったら、まずはモンスターを倒すために一緒に戦う

 荒野に入る直前、勇者は3人のほかの勇者たちに出会いました。3人のスキルと経験値がよくわかりませんが、その装備を見ると、攻撃魔法を使えそうな者と、腕っぷしの強そうな者と、補助魔法が得意そうな者とがいます。はてさて、自分の経験値はさっき連携協働スキルがレベル2に上がったばかり。遠くのほうには、1人では倒すのが難しそうなモンスターがいます。近くの茂みに目をやると、そんなモンスターが今にも飛び出してきそうです。
 というような状況で、まず初めに何をするべきだと思いますか?

 多くの医療系勇者は、まず「共に集った勇者たちは、何ができる人たちなのか」を知りたくなります。攻撃力はどのくらいなのか、回復魔法を使えるのか、補助魔法の経験値はどの程度なのか。それを完全に把握してから役割分担を決めようとすることが多いようです。これはとても自然なことです。なぜかというと、医療系勇者は「理解してから介入する」ように訓練されているからです。
 ところが、お互いの理解の程度がバラバラなんですよね、たいていの場合。どこまで理解すれば連携できると考えているのか、わかり合えていません。だけどモンスターはすでに目の前に飛び出してきて、攻撃態勢で構えている。
 そうなったら、とにかくそこにいるみんなで一緒に戦うのです。モンスターからは逃げられないから。
 メンバーの相互理解とかできていなくても、仲良くなっていなくても、戦いながら、それぞれ自分の得意な技を繰り出し、どのモンスターにどのくらいダメージを与えられるのかがわかってきます。それに加えて、ほかの勇者がどんな攻撃でどんなダメージを食らう特性なのかもわかってきます。そうすると、他のメンバーの動きを予測できるようになります。予測できるようになると、それに合わせて自分が次のターンで何をしたら一番効果的かが見えてくるので、それをします。そうやって一緒に戦うことにより、4人の信頼関係が向上していく(すなわち行動の予測可能性が向上する)わけです。

 モンスターを倒した時に得られる経験値も勇者ごとに違います。レベルが上がる者もいれば次のレベルまでかなりの経験値を必要とする者もいる。レベルが上がればできることが増えていきますが、それはその勇者だけの特技だったりして、ほかの勇者にはその技の神髄なんてわかりません。客観的にわかるのは、モンスターに対しての効果だけです。
 勇者たちは、お互いに完全に理解してから一緒に戦い始めたわけではありません。一緒に戦っているうちに、「こいつはここで回復魔法を使うんだな」「こいつはいざという時に、他のメンバーをかばってダメージを引き受けるやつなんだな」「最後までガンガンいくやつなんだな」「こいつは眠り魔法にかかりやすいやつだ」とかがわかってくる。
 連携協働における他職種理解というのは、お互いを完全に理解することではなく、「一緒に戦うために、わたしはこの職種の何を理解しておく必要があるのか」を「理解」しておくことなのですね。これが理解できると、連携協働スキルのレベル上げを加速できます。ま、専門職連携教育というのは、チームのメンバーのことを全部わからなくても一緒に戦えるという感覚を育てる、一緒に戦うためにはどんな理解が必要なのか、自分であたりをつけられるようになるっていうのが、学習効果の一つなのかもしれません。

城は壊すな、門を広く開けよ

 勇者は一人で世界を救うスーパーハイパーな存在ではありません。勇者ごとにそれぞれ特技があり、特性があり、装備や環境によって状態変化がある。強みがあれば必ず弱みもあるということです。それが「専門性」というものの特性です。それぞれ得意な技やレベルが違うからこそ、専門職の協働が成立します。もし全員が同じ属性、同じレベル、同じスキルだったら、いきなり全滅ということがあり得てしまいますよね。
 連携協働スキルは、自分の得意技(すなわち専門性)を捨てて獲得するものではありません。むしろ自分の専門的なスキルが上がるほどに、連携協働スキルをレベル上げしないと、自分の得意技を効果的に使ってもらえません。モンスターの性質に応じて、ダメージを与えやすい攻撃は違うでしょうし、誰が前に立って最初に攻撃するか、誰が回復魔法を唱え続けるか、というような役割分担を自ら判断して行動できる、というのは、自分の専門性のレベルや方向性により違ってきます。
 誰が一番偉いのかという序列での戦い方はもう通用しません。今、誰の得意技が必要なのかをチーム全体がサクッと合意できることが重要なのだと思います。
 このような勇者の得意技はお城で鍛錬して身につけるものです。武器を磨く場所も、回復する場所も、経験を受け継ぐ場所としても、お城は必要です。
 専門職連携とは、それぞれのお城を壊して、大きなお城にまとめてしまうことではなく、必要な改築をしつつもそのお城の歴史や文化はそのままに、門を開け放つことなのかもしれません。門が開いていると、世界の変化に気づくのが少し早くなるかもしれませんしね。

 

酒井 郁子

千葉大学名誉教授/特任教授

さかい・いくこ/千葉大学看護学部卒業後、千葉県千葉リハビリテーションセンター看護師、千葉県立衛生短期大学助手を経て、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。川崎市立看護短期大学助教授から、2000年 千葉大学大学院看護学研究科助教授、2007年 同独立専攻看護システム管理学教授、2021年 同高度実践看護学・特定看護学プログラム教授を経て 、現在に至る。この間、2015年1月1日から2025年3月31日まで専門職連携教育研究センター センター長を務めた。2026年4月より現職。著書は『看護学テキストNiCEリハビリテーション看護』[編集]など多数。趣味は、読書、韓流、ジェフ千葉の応援、料理。

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