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助産師教育のさらなるパラダイムシフト~COVID-19の知恵から変革を~

助産師教育のさらなるパラダイムシフト~COVID-19の知恵から変革を~

2026.06.30眞鍋えみ子(同志社女子大学看護学部 教授)

 現代の助産師教育は、従来の「分娩介助を中心とした技術修得」から、少子化や晩産化、多様化する家族背景に対応する「コンピテンシー基盤型教育」へとパラダイムシフトしています。今回は、私のこれまでの学士課程(12年)と大学院(8年)での助産師教育の経験を紹介しながら、今後起こすべきさらなるパラダイムシフトについて考えたいと思います。

学士課程教育の経験から

 学士課程では、保健師助産師看護師学校養成所指定規則の「実習中分べんの取扱いについては、助産師または医師の監督の下に学生一人につき十回程度行わせること」をクリアすることで教員も学生も精一杯の状況でした。

助産師のアイデンティティをどう形成するか―先輩の姿を見せる

 そのなかで、「教員に促されないと産婦さんの側に行きたがらない学生」「直ぐにナースステーションに戻ってくる学生」「実習時間内に分娩介助が見込めない産婦さんを受け持ちたがらず、同じ産婦さんが一夜明けて分娩が進行すると昨日とは違って受け持ちを希望する学生」など非常に現実的な学生の姿勢に衝撃を受けました。 タイトな実習スケジュールのなかで“今どきの学生”がどう妊産婦さんと向き合うかの姿勢や、助産師として土台となるアイデンティティをどのように形成していけばよいのかといった点に大きな課題を感じました。
 その後、助産学領域の責任者となって、「学生の個性や強みを活かし対象者と向き合うにはどう教育すればよいか」と考え、最初に取り入れたことは、助産院での継続事例実習でした。大先輩の助産師から対象者への向き合い方や姿勢を学んでほしいと願いました。学生達は素敵な助産師との出逢いにより大きな刺激を受け、実習病院での分娩介助1例目から対象者さんの側に学生の姿がありました。

実践能力のギャップにどう向き合うか―OSCEやシミュレーション教育の活用

 一方、助産院での自然なお産と医療機関での陣痛促進薬使用などの管理的な分娩のギャップ、限られた時間での助産診断と指導者への報告ができないとケアに参画できないことや、助産師基礎教育修了時と医療現場で求められる実践能力とに乖離があるという次の課題に直面しました。
 そこで、実習前後の実践能力を評価するために客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination:OSCE)を取り入れました。まず、書籍や文献、研修会への参加および開催、教員や臨床との共有によりOSCEやシミュレーション教育のノウハウを学習しました。そして、OSCE課題や評価表の作成において教員間で認識を共有し、講義や演習・実習内容を改善しました。この取り組みでは、手をかけて工夫して教育することへの手応えを感じることができました。また、OSCEの評価者に助産師の参画を得ることで、OSCEやシミュレーション教育を介した臨床と教育機関との連携による助産師養成の重要性をさらに実感しました。

大学院教育の経験から

 学士課程では多くの課題を抱えつつも、同僚の先生方の多大なる尽力もあり、助産科目履修者の単位を認定してきました。そして、現在所属する大学に看護学部が新設され異動しました。本学では、当初、学士課程での助産師教育の実施が計画されていました。しかし、高度化する周産期医療への対応、助産師の業務やケア範囲の拡大、国際水準の教育期間の確保など助産学の発展のためにも大学院での教育は必須と考え、学部開設4年目には看護学研究科助産学実践分野として助産師教育をスタートしました。助産専門職として自律的に実践できる能力や態度の修得、実践と研究の統合による対象者に合わせた根拠あるケアの実践という目的を根底にカリキュラムを組み立てました。まっさらのところに絵を描いていくように科目やその内容を考える醍醐味は貴重な経験でした。学士課程では叶わなかった授業も具現化することができましたが、その一方で責任の大きさも実感しました。

助産師教育のレディネス・実践能力の低下にどう向き合うか―やはりOSCEやシミュレーション教育の活用

 近年、看護基礎教育では、在院日数の減少、患者の重症化や複雑化、医療安全や患者の権利擁護の観点から、臨地実習で実施可能な看護技術の機会や範囲が制限されています。周産期においては分娩数の減少や実習施設の確保に困難があり、妊産褥婦や新生児のケア、退院指導・沐浴指導や分娩を見学していない学生が増加しています。そのため助産師教育機関に入学する学生のレディネスの低下や、周産期医療現場で助産学生に必要とされる実践能力と実際に学生に備わっている実践能力との乖離を痛感します。
 そのための教育としてやはり技術試験、シミュレーション、OSCEを積極的に取り入れ、実習前の実践能力を強化しています。モデル人形を用いた分娩介助をはじめとした技術は、正しく丁寧に繰り返しトレーニングすることによる習得を期待しています。技術試験は、その成果を評価するためにも重要な役割を担っています。また、実習では緊張感や時間的な制約などがある緊迫した状況なかで、刻々と変化する分娩経過や産婦・家族の状況に応じながら、知識や技能・態度を活用し、分娩経過の助産診断とそれに基づくケアを臨機応変に行うことが求められます。

大学院でのOSCEの応用

 OSCEでは、妊婦健診場面と陣痛の訴えによる電話対応・入院・第1~3期ケアの2場面を課題としています。後者は100分をかけてパフォーマンス評価を行っています。OSCE後には、評価者や模擬患者により個別にフィードバックし、学生のリフレクションの時間を取っています。学生にとっては自己の実践能力の把握、課題の省察や明確化の機会となり、知識や技術不足に気づき、さらに主体的に練習を繰り返し行うなど実習への準備性を高めています。
 また、リアリティのある模擬産婦を目のあたりにし、共感的・支持的ケアの重要性や、分娩経過や産婦とその家族の様子に応じた助産診断とその修正を、限られた時間内に行わなければならない必要性と責務を認識しています。さらに、緊張感やプレッシャー下におかれた際の自分自身の思考や言動の傾向、実践能力を実感できるため、分娩期実習のイメージ化にもつながっています。

 大学院の教育では、2年間という時間があるので「1年次に経験できなくても2年次に」と多少の気持ちのゆとりはあります。しかし、61単位を修得させるには時間的な余裕は皆無です。なかでも研究の初学者がそのプロセスを経験することは、非常に大きなハードルです。しかしながら、そのプロセスを乗り越えた達成感、論理的思考力やプレゼンテーション能力は臨床判断モデルで示されている気づき、解釈、反応、省察にも大きなプラスになると思います。

スペシャリティをもつことの大切さ

 さらに、私は学生達に「自分の得意とする分野、スペシャリティを見つけてほしい」と伝えています。そのためにスペシャリティをもつ多くの助産師に非常勤講師を依頼し、助産師の生き生きとした活動の実際とその背景を知ることや学生と先輩助産師との関係構築に努めています。ちなみに私のスペシャリティはマタニティヨガです。時間的な制約があるなかで、月に数回のヨガ教室は、妊婦さんおよび産後の女性に継続的にかかわることのできる貴重な経験であり、助産師としての自己効力感を高めています。健康心理学の授業では、マインドフルネスとヨガの体験演習を取り入れています。ヨガ教室は、研究のフィールドとしても活用することができ、臨床・教育・研究が相互に好影響を与えており、理想的な循環モデルであると自負しています。

これからの助産師教育に期待すること—さらなるパラダイムシフト

 COVID-19感染拡大時には、臨地実習の中止や制限に対し、オンライン会議ツールを活用した臨床との事例検討、シミュレーターを用いた学内実習などの導入やシミュレーション教育の充実により、実践能力の低下を防ぐ教育を工夫してきました。シミュレーターも高機能となりました。近年の出生数の減少により、今後さらに実習における経験が少なくなることが予測されるため、シミュレーション教育の重要性は増すばかりです。一方で学生達の就業に関しては、助産師として産科病棟への勤務を希望してもかなわないケースも少なくないことや、産科病棟に配属となっても分娩介助の業務につくまでに時間を要することも耳にします。

 基礎教育においては、学内演習などで習得した技術や思考力をベースに実践能力を修得し向上させるには、実習は不可欠であると考えます。しかし、社会の状況や変化を鑑みますと、これまでの実習と同じ内容や方法で今後も進めていけるのか危惧しています。一方、卒業後は、アドバンス助産師の制度により助産実践能力が一定の水準(助産実践能力習熟段階レベルⅢ)に達していることを評価し認証する仕組みや各医療機関における継続教育も構築されています。今こそ、基礎教育ではCOVID-19感染拡大時に培った知恵を実装し、継続教育の充実という強みを活かし、基礎と継続教育とが連関した助産師育成へとパラダイムシフトするときにきていると思います。両者の強固な連関により、人生100年時代、地域を含むあらゆる実践の場において自律的に役割を発揮できる助産師の育成、助産師のキャリア形成の再構築につながることを期待します。

助産師としての基盤をつくるために

 時代の要請に合わせて教育方法を工夫する必要がある一方で、助産師の土台を形作る普遍的かつ最新の基礎・応用知識を身につけておく必要があるという原則はいつの時代も変わることはありません。このたび編集としてかかわった『今日の助産—マタニティサイクルの助産診断・実践過程(改訂第5版)』は助産師の基盤となる最新知識を網羅した、願わくば臨床助産師・学生の皆様の手元で日常的に「バイブル」のように参照され、役立てていただきたいと考える一冊です。
 本書の強みは、マタニティの時期ごとに臨床判断モデルの気づき、解釈の手がかりとなる視点を網羅的に押さえていることです。困ったときは、本書を手がかりに、漠然とした事象から具体的で詳細な内容―すなわち知りたい情報にたどり着くことができます。第5版では、産褥期および新生児期を大きくリニューアルし経過時期別に記載しました。時期を想定した焦点化した学習ができることや対象者の経過に合わせて効率よく活用できます。さらに、産後および生後4ヵ月までの経過とその助産診断を追加しています。また、「アセスメント」には思考の根拠となるエビデンスやその視点を示し、「ケアの要点」とともに初学者に理解しやすい表現にしました。「診断のために必要な技術」は、紙面を有効活用し、多くの情報と根拠を掲載しました。本書を思考過程の基盤強化と専門知識の深化にうまく活用してほしいと願います。

 

新刊『今日の助産—マタニティサイクルの助産診断・実践過程(改訂第5版』(北川眞理子・眞鍋えみ子編)のご案内

マタニティサイクルの助産診断と実践過程に焦点をあてた助産学の標準テキスト。「助産業務ガイドライン2024」「望ましい助産師教育におけるコア・カリキュラム 2020 年版」に対応。見開きの構成で、①どのようなデータ・情報をとるか、②アセスメントのポイントやコツや根拠は何か、③それらから導き出される助産診断例、④助産診断に基づく助産ケアの例とポイント、⑤助産ケアの評価など、助産診断・実践の過程が一目でわかる。いつの時代も変わらない助産の技・コツを伝える、助産師必携のテキスト。

・2026年4月、南江堂
・A5判、1158頁、定価10,560円(本体9,600円+税)

 

 

眞鍋えみ子

同志社女子大学看護学部 教授

まなべ・えみこ/臨床にて助産師として勤務後、看護専門学校専任教員、京都府立医科大学医学部看護学科教授を経て2015年より現職。専門は、母性看護学、助産学、健康心理学。妊婦さんの自己管理能力やセルフケア行動の維持・向上を目指したアプローチや自律神経、身体組成などの指標から妊娠期や育児期のからだづくりの研究に取り組む。東亜大学大学院総合学術研究科臨床心理学専攻を修了(博士・学術)。趣味はバードウォッチング。

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