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第15回:動物福祉学からグローバルナーシングへ

第15回:動物福祉学からグローバルナーシングへ

2026.09.16谷津 裕子(公立大学法人宮城大学人間・健康学系看護学群 教授)

 こんにちは。連載第14回は、グラスゴー大学で動物福祉学を学んだお話でした。今回は、その学びがグローバルナーシング研究に繋がった体験をお話しします。

動物福祉学が教えてくれた、環境の健康の大切さ

 2017年の秋、私はグラスゴー大学大学院のAnimal Welfare Science, Ethics, and Lawコースを修了し、修士号(Master of Science)を取得しました。思いがけなかったのは、動物福祉学を学ぶことで環境の健康の大切さに目が開かれたことでした。

 看護が、人間と人間、もしくは人間と環境の相互作用で成り立つことは、看護のアートの研究でも明らかになった事実でした。しかし、そうした相互作用が地球環境と繋がっているという視点は、留学前まではしっかりと持っていませんでした。

 そこで、日本に帰国し、東京慈恵会医科大学に就職してすぐ、私はグローバルナーシングについて研究的に学ぶことにしました。私が取り組んだ研究は、グローバルナーシングの研究動向を明らかにすることを目的としたスコーピングレビューでした。この研究の成果1)はNursing Openに掲載され、PDFはインターネットから無料でダウンロードすることができるので、もしよろしければ検索してみてください。

 今回はこの研究の概要をお伝えし、看護とは何か? についてグローバルな視点で考える機会にしたいと思います。

グローバルナーシングとは

 1970年代後半以降、自由貿易に基づく資本移動、人の移動、技術移転が急速に加速しました。この第2次グローバル化は、大気汚染、地球温暖化、水と食料の不足、自然災害の増加と深刻化、感染症の流行、経済格差の拡大など、世界中の自然環境と社会環境に悪影響を及ぼすと同時に、地球規模で個人の健康と幸福にも深刻な影響を与えています。近年はCOVID-19などの人獣共通感染症の蔓延も深刻化しています。このような状況下、看護には、国際的な視点に立った支援とケア、そして地球規模の健康(グローバルヘルス)への取り組みが求められています。

 グローバルナーシングとは、看護専門職がグローバルヘルス問題の抽出、計画、介入に参加する看護と定義されています2)。私は、2016年から2018年に発表された英語論文における、グローバルナーシングの研究動向を明らかにすることを目的にレビューを行いました。PRISMAフローに基づき最終的に抽出された133件の論文についてテーマ統合を用いてデータを分析・解釈した結果、 (a)グローバルナーシングの概念化、(b)環境の健康、(c)感染症、(d)安全保障への取り組み、(e)世界的な看護人材不足、(f)留学プログラムの多様化という6つのトピックが浮かび上がりました。

 このうち「環境の健康」に焦点を絞ってお話ししましょう。
 


 

環境の健康に何が起きているのか

 1960年代以降の地球規模の課題は、環境の健康(environmental health)に対する脅威とみなされています。これらの課題には、気候変動、異常気象の影響、大気汚染による健康被害、水や食品を介した感染症の蔓延、紫外線への曝露などが含まれます。これらの問題の原因、対策、看護師の役割について調査が行われてきました。

 例えば、ニコラス氏とブレイキー氏が行なった文献レビューでは、看護組織が地球規模で気候変動に対抗するための決議を採択し、リーダーシップを発揮していることが明らかになりました。そして、人間が環境の健康に及ぼす悪影響に関する政策議論に看護師が参加することが不可欠であると指摘しました。さらに、看護師が地球温暖化対策に関与することは、グローバルリーダーシップを発揮する上で重要な機会となると断言しています3)

 私たちが取り組んだ研究の結果は、現代社会における深刻な国際保健、労働、地球環境の問題を反映していました。多くの論文で、一見するとその国や地域特有の問題のように思える看護課題が、他の国や地域も抱える世界的な懸念事項であることが指摘されています。様々な健康レベルやライフステージにおける健康問題の原因は、国家や地域の枠を超えた世界的な問題として分析され、世界的な視点から改善策が検討されているのです。これらのトピックに基づいて、健康的な環境を創造し維持するための新しい戦略、看護モデル、環境関連の理論を開発する必要があるでしょう。

環境の健康に関する世界的戦略

 環境の健康を創造し維持するという世界的な戦略については、すでにいろいろな形で私たちの生活や看護実践に入り込んでいます。その代表的なものとして、プラネタリーヘルスとワンヘルスが挙げられるでしょう。

 プラネタリーヘルス(Planetary Health)とは、人間の健康が地球環境と密接に結びついているという認識のもと、全ての人の健康と持続可能かつ公正な社会の実現を目指す考え方です。プラネタリーヘルスの考え方では、単に人間の健康だけではなく、野生動植物はもちろん細菌やウイルス、家畜までも含めた全ての生命と環境の健康を重視します。さらに、医学や公衆衛生学、社会学、経済学、環境科学など多面的なアプローチにより、人間と地球との最適な関係を築くための研究や教育、実践の枠組みを提供するものです。気候変動や生物多様性の損失などが深刻化している今日、人間の健康・幸福と、環境との調和の実現を追求するための新たな視点を提供するのが、プラネタリーヘルスです。

 ワンヘルス(One Health)は、人、家畜、野生動物、植物、そして生態系を含むより広い環境の健康が密接に関連し、相互に依存していることを認識し、人間、動物、生態系の健康のバランスを持続的に保ち、最適化することを目的とした統合的で統一的なアプローチとして定義されます。このアプローチには、医歯薬学、保健科学、獣医学、環境科学、社会科学など多くの学問領域や、行政、産業界、教育研究機関等の領域横断的な協働が必要とされます。そして、人間、動物、環境の健康を一つのものとして捉えたワンヘルス・アプローチを通して、健全な生活環境を次世代に繋げていくことが重要な目標となっています。
 


 

環境の健康を護る看護

 グローバルナーシング研究を通じて私は、環境の健康という視点の重要性を学びました。人間への看護は、世界に暮らす多くの存在者への看護につながります。世界は人間だけでなく動植物を含むさまざまな生命体と生態系から成っています。人間は、それらの存在と共存することで生きながらえる存在です。それらすべての存在に優しくあることが、健康な環境を創り、人間に健康をもたらすといえます。 


引用文献
1)Yatsu H, Saeki A: Current trends in global nursing: A scoping review. Nursing Open 9(3):1575-1588, 2021,〔https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/nop2.938〕
2)Edmonson C, McCarthy C, Trent-Adams S et al: Emerging global health issues: A nurse's role. The Online Journal of Issues in Nursing 22(1):2, 2017,〔http://doi.org/10.3912/OJIN.Vol22No01Man02〕
3)Nicholas PK, Breakey S: Climate change, climate justice, and environmental health: Implications for the nursing profession. Journal of Nursing Scholarship 49(6):606-616, 2017,〔http://doi.org/10.1111/jnu.12326〕

谷津 裕子

公立大学法人宮城大学人間・健康学系看護学群 教授

やつ・ひろこ/日本赤十字看護大学卒業後、大田原赤十字病院(現那須赤十字病院)看護師、日本赤十字看護大学助手を経て、日本赤十字看護大学大学院看護学研究科博士後期課程修了(看護学博士)。同大学および大学院の講師、准教授、教授を経て、2016年3月に退職。同年10月より英国のグラスゴー大学大学院で動物福祉学を学び修士課程修了(科学修士)。帰国後、東京慈恵会医科大学医学部看護学科教授を経て2022年度より現職。著書は『Start Up 質的看護研究 第2版』(学研メディカル秀潤社、2014)、『動物―ひと・環境との倫理的共生』(東京大学出版会、2022)など多数。好きなことはお笑いの動画を見ることとveganカフェ・レストランを巡ること。

企画連載

谷津裕子の ゆっくり研究散歩

多様な研究テーマをもつ筆者。これまで取り組んできた研究テーマには、テーマからテーマへと流れゆくストーリーがあり、その折々に気づきや驚き、ワクワク感を覚えるシーンがありました。本連載では研究テーマに出会う散歩道を、読者の皆さんと共にゆっく~り歩みます。

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