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第34回:誤解を招くコトバ ~医療者と患者との意思疎通について~

第34回:誤解を招くコトバ ~医療者と患者との意思疎通について~

2026.05.07中野 隆史(大阪医科薬科大学医学部 教授)

 第25回の連載では医療界の「業界用語」のようなものについてお話ししました。こちらは一種の「隠語」なので、むしろ内輪のみで理解できればよいと思っているフシがありますが、しっかりと患者さん、家族に説明するためには、誤解のないようにしなければなりませんね。しかし、そのような場合に、同じコトバであっても、医療者と一般の方々で大きく意味を取り違えているようなものがありそうなのです。今回はそのようなお話しをしようと思います。

「最も一般に知られていない医学用語」とは

 2009年のものと少し古いですが、国立国語研究所が医療用語について調べた研究(図1)があります。調査した中で、一般の方が一番理解できなかった用語は「振戦」(認知率6.8%)だったそうです。これを聞いて私、手元にある冊子版の広辞苑(第7版、岩波書店)で調べてみましたら、実は「振戦」は見出し語にはありませんでした。この辞書では「しんせん」の漢字は「震顫・振顫」となっていて、語義の2つめに「②〔医〕(「振戦」とも書く)」として、「無意識的に頭部・手指・軀幹に起こる筋肉の無目的規則的な運動。パーキンソン病・アルコール中毒・ヒステリーなどで起こる」となっています。そっかあ。

 私のパソコンには日本語変換システムATOKの上で動く広辞苑第7版の電子版がインストールされているんですが、振戦で「end」ボタン(電子辞書を開くボタンです)を押しても出てこなかったのはこれが理由だったのですね。小型辞書はどうかと見てみますと、岩国(岩波国語辞典、第8版)の表記も広辞苑と同じような感じです。さすが同じ出版社。一方、三国(三省堂国語辞典、第8版)は「震顫・振戦」となっていて、最初から[医]の意味しか載せていませんでした。三国第8版は2022年刊行なので、この国立国語研究所の調査結果を参考に見出し語を整理した可能性があります。さらに他の辞書も見てみましょう、と言いたいところなのですが、あれれ、私の本棚に買ったはずの「新明解」がない。誰かに貸したまま返ってきてないんでしょうか・・・。

図1 「病院の言葉」に関する研究をとりまとめた単行書
[国立国語研究所「病院の言葉」委員会:病院の言葉を分かりやすく―工夫の提案―,勁草書房,2009〔https://www2.ninjal.ac.jp/byoin/book/〕(最終確認:2026年4月2日)より引用]

「ショック」が指す状況は 

 ただ、振戦のように、一般の方が最初から「理解できない」場合のほうがまだマシといえるかもしれないんです。分からないのなら聞き直してもらえばいいんですが、意味を取り違えたまま医療がどんどん進んでいってしまって後から大きな問題になる、というのが実際にはもっと困った事態といえると思います。そして、こちらのパターンもその研究結果にあります。曰く、「認知率と理解率の差が大きいコトバ」。つまり「聞いたことはあるけど違った意味に取っているコトバ」ということ。この、認知率と理解率の差がもっとも大きいコトバは「ショック」なんだそうです。
 想像してみてください、あなたが救命救急センターに勤めていて、交通事故で多発外傷の患者さんが救急車で運びこまれました。ご家族に電話で連絡しなければなりません。

あなた:「もしもし、○○さんですか、あなたのお父さんがさきほど当救命救急センターに搬送されました。すぐに来てください。」
娘さん:「父はどんな様子ですか。」
あなた:「ショック状態です。」

 不幸な話ではありますが、珍しい話ではないと思います。このような場合、医療従事者の方はどういう気持ちでお父さんの状態を伝えたかったでしょう。そうですよね。血圧が急激に低下して重要な臓器に血液を十分に送れず、生命に危険があるような状態であることは医療従事者だったら分かります。ところが一般的に「ショック」の意味はそうではありません。漫画でよく出てくる、「ガ・ガーン! ショック~~!!」ってやつです。「あらビックリ!」の強調形だったり、あるいは「がっくり・・・」(落胆)という精神状態を表すコトバとして捉えると思います。娘さんの心の中の声は「え、うちのお父さん、急に会社をリストラでもされて『ショック』なのかしら・・・」くらいの感情かもしれませんよ。
 このすれ違いは冗談になりません。絶対に避けないといけませんよね。先述のようにこの研究では、ショックの理解度は94.4%で、ほとんどの方がコトバとしては知っているんです。しかし、医学的に正確な意味を理解している方は43.4%で、その差は51.0ポイントもあります。つまり、2人に1人は「必ず」誤解します。誤解されている方は「急な刺激を受けること」(46.5%)、「びっくりすること」(28.8%)などと捉えており、これを見るとやはり、「ガ・ガーン!ショック~~!!」と思っておられるようです。

 じゃあ、交通事故の多発外傷なんだから、「出血性ショック」っていえば誤解されないのでは、と思ったあなた、いえいえ世の中そんなに甘くないです。ショックの意味そのものが誤解されているんですから、そのコトバのアタマに何をつけてもダメです。「出血性ショック!?そうなんだ、お父さん、事故で血がいっぱい出てびっくりしてるんだ。男の人って血に弱いのね・・・」なんて理解でもおかしくありません。とにかく「生命予後」が悪いことを伝えなきゃいけないのです。あわわ、この「予後」っていうコトバも患者さんに理解されない、誤解されやすいコトバの代表です(認知率52.6%)・・・。我々は「出血のために血圧が急激に低下し、命の危険があって、すぐに治療を開始しないといけない状態です」と、相手の立場に立って説明する必要があると思います。

「複雑骨折」と聞いて、どのような症例を想像しますか?

 こちらは国立国語研究所の調査結果にはなかったのですが、私が救急病院で当直をしていた頃、明らかに誤解されてるなあと思っていたコトバが「複雑骨折」でした。当時わが国では交通事故による外傷が一番多かった時期なんですが、上肢(これも「上司」に聞こえますね)や下肢の複雑骨折をよく見ました。患者さんやその家族に「下腿、つまりすねの部分の複雑骨折です」と説明すると、ほぼみなさんが、骨が「バキバキ」に折れていると想像されます。しかしX線像では脛骨が「ポキン」と一ヵ所で折れているだけなので、不思議に思われるんです。
 このコラムを読んでおられる方はもうお分かりでしょう。複雑骨折(compound fracture)っていうのは、治療に難渋するという意味で「複雑」と名付けられているのですが、要は折れた骨が皮膚を貫いて出てしまっている骨折のことをいいます。

英語のcompoundは「化合物」で有名ですが、この場合は「問題を悪化させる」という動詞用法からの意味で、これを日本語で「複雑」と訳してしまったのでしょう。

 こうなってしまうと、骨髄に容易に細菌が感染してしまい、「骨髄炎」を発症しやすくなります。骨髄炎はとっても治りにくい感染症なので、治療が「複雑」という意味で「複雑骨折」と呼んだのです。ちなみにバキバキに折れている骨折は「粉砕骨折(comminuted fracture、図2)」というと思います。ただこの「複雑骨折」、当時の私の感触では9割方の患者さんが勘違いされていたように思います。それもあってかこの用語、現在ではほとんど使われず、「開放性骨折(open fracture)」というようになりました。この方が分かりやすく、誤解がなくなりましたね。
 この例のように、誤解されやすい医学用語自体を変えてしまうという試みも、少しずつですがなされてきています。たとえばかつて「慢性関節リウマチ」と呼ばれていた病名は今では「関節リウマチ」とされていますし、「認知症」もそうですね。現在、関連する学会では「糖尿病」を別の用語に変える検討がなされています。たしかに、糖尿病は「尿」がついていますが、膀胱や腎臓(だけ)の病気ではありませんよね。

図2 粉砕骨折(脛骨)のX線像の例
 [岸本正文:下腿の骨幹部骨折.一般の方へ.日本整形外傷学会ホームページ,〔https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip21.html〕(最終確認:2026年4月2日)より引用]

正確に、分かりやすく患者さんに説明することの難しさ

 この研究においては、「耐性」という用語も注意が必要と指摘されています。ご存じのように耐性菌、耐性ウイルスというように、われわれのような微生物・感染症の専門家はよく使う用語なのですが、注意が必要と指摘されるとドキッとします。今まで患者さんにはちゃんと意味が伝わっていたのだろうか・・・と心配になってきました。
 そもそも「耐性」というコトバ自体が日常であまり使われる用語ではないようなのです(認知率59.5%)。その数少ない用例として「ストレス耐性」などがあり、どちらかというと人間側が薬の副作用のようなものに「耐える力」について言うことが多いのが誤解のもとだ、との指摘です。そのため、細菌が抗菌薬に対して耐性を持つようになった、というように、主語が「細菌」「微生物」であることをはっきりさせることが誤解を防ぐ方法だということでした。また、「抵抗力」というようなコトバに置き換えれば誤解が少ないとも提案されています。ただし、簡単なコトバを使おうとして「薬が効かない菌」といってしまうと、今度は患者さんを不安に陥れることになりかねません。

 このような医療用語全般に関してですが、実は私も何度か失敗したことがありますが、患者さんに理解してもらおうと極端に単純化したコトバを使ってしまうと、のちのちの説明で整合性が取れなくなることがあります。単純にする、というよりも、多少コトバが長くなってもいいので、正確に、そして分かりやすく説明することが必要なんだと感じています。みなさまはどう思われますか。

中野 隆史

大阪医科薬科大学医学部 教授

大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)医学部卒業後、同大学院医学研究科博士課程単位取得退学(博士(医学))。大学院時代にHarbor-UCLA Medical Centerに留学。同大学助手時代に国際協力事業団(現・同機構;JICA)フィリピンエイズ対策プロジェクト長期専門家として2年間マニラに滞在。同大学講師・助教授(准教授)を経て2018年4月より現職。医学研究科大学院委員会委員長、病院感染対策室などを兼任。日本感染症学会評議員、日本細菌学会関西支部監事(前支部長)、日本機能水学会理事長、大阪府医師会医学会運営委員なども勤める。主な編著書は『看護学テキストNiCE微生物学・感染症学』(南江堂)など。趣味は遠隔講義の準備(?)、中古カメラの収集など。

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