本連載もいよいよ30回目に突入です。今回は微生物の「数え方」について考えてみようと思います。
世間の広告、たとえばサプリメントなどで「1粒に乳酸菌が○億個も!」なんていうのを見たことがあるでしょうか。そもそも目に見えないような小さな微生物を、どうやってそんなに正確に数えられるのでしょう・・・。まあ、私はまさにそれを「仕事」にしているわけなので、ぜひお話ししたいのですが、ついつい熱が入ってアレコレと書きすぎてしまいました。ということで今回は前後編、まずは微生物の中でも「細菌の数え方」に焦点を当ててみます。
目に見えないモノをどうやって数えるのか
その前に、“目に見えないモノを数える”という点に関連して、ヒトは何個の細胞からできている? という命題について考えてみたいと思います。
これ、少し前までは「60兆個」といわれていました。一説によると、ヒト細胞の平均的な重さが1ナノグラムなので、体重60キログラムの個体なら、ということで単純に割り算して60兆個となったという話です。ううん、アバウトにも程があるという感じです。ちょっと考えただけでも、われわれの組織には細胞と細胞のあいだにコラーゲン線維なんかがありますし、とくに骨などは骨細胞の重さよりも、骨基質と呼ばれる硬い間質の部分のほうがずっと重いような感じがしますね。
最近ではBianconi E らの論文1)にある「37兆個」というのがより信憑性の高い数値とされているようです。こちらはもうちょっと精密に、いろんな臓器や組織を顕微鏡で観察して細胞数を数え、それらを足し算していって求めた数字だということです。
細胞の数え方を細菌にも応用するとなると、同様に質量(重さ)で推定する、あるいは顕微鏡で数を数えるということになるでしょうか。実際、細菌の重さを量って、推定される1個の菌の重さで割ることで数を求めることはできます。細菌を遠心機で集めて、そのペレット(遠心沈渣のかたまり)を加熱して乾燥させ、重さを量ります。細菌1個の乾燥重量はおよそ0.1から1 pg(ピコグラム)とされますので、割り算で個数は出てきます。
ただこれもかなりいい加減です。たとえば細菌の菌体の外側にはバイオフィルムであったり粘液様の物質であったり、いろんなものがくっついている可能性があって、もちろんペレットを作る前に洗浄したとしても、完全に取り除けているのかはわかりません。そしてそもそも論なのですが、細菌1個の乾燥重量をどうやって求めるか、という問題があります。結局は別の方法で菌を数えてから、その数の菌のかたまりを計量して、その重さを菌数で割ることで「細菌1個あたりの乾燥重量」が得られるわけですから、やはり菌を数えるためには別の方法を組み合わせないといけないように思います。
「血球計算盤」を使ってみる
じゃあ「顕微鏡で細菌の数を数える」ことはできるのかというと、実際にその方法はあります。血球計算盤という、顕微鏡で覗くと線が引いてある特殊なスライドグラス(図1、2)を用いるのです。血球計算盤にはいろんな線の引き方をしたものがあります。うちの教室では「ビルケルチュルク(図1上段)」というのを使っていますが、かつての留学先では「インプルーブド(改良)ノイバウアー(同下段)」ってのを使っていて、私はこちらの方が単純で好きでした。

[ミナトメディカル:血球計算盤.血液・一般検査,〔https://minatomedical.com/01-111.html〕(最終確認:2025年9月4日)より引用]

本来は血球を数えるモノ
この血球計算盤、名前のとおりで本来は末梢血中の赤血球や白血球の数を数えるためのものなのですが、うちの実験室ではおもに培養細胞の数を数えるのに使っています。そのため、実験室に常時あるんです。今ではバイオセーフティ実験室でも使いやすいように、ディスポーザブルのプラスチック製のものも発売されています。改良ノイバウアー型(図3)で説明しますと、中央の細かい線の部分は赤血球カウント用で、四隅の4×4の四角の部分をした四角の部分が白血球カウント用です。たとえば左上の青線で囲まれた部分、4x4の線で分割されているところは実際には1 mmx1 mmなんです。その中に見える細胞の数を数えるわけです。

[Abcam:血球計算盤を用いた細胞数のカウント法,〔https://www.abcam.co.jp/protocols/counting-cells-using-a-haemocytometer-2〕(最終確認:2025年9月10日)より引用]
血球計算盤はなかなか優れものです。というのも、スライドグラスとカバーガラスの間の厚みはピッタリ0.1 mmになるように調整されていますので、この1つの区画の体積は1 x 1 x 0.1 mmなんです。ミリリットル(mL)にしやすいようにセンチメートルに直すと、0.1 x 0.1 x 0.01 cmで、つまりは 1x10-4 mLになります。なのでそこにある細胞の数を10,000(104)倍すれば1mLあたりの個数になる、というわけです。
ただまあ、細胞はある程度大きいので数えやすいのですが、細菌はかなり小さいのでブラウン運動*しますし、高倍率で観察するのでピントが合う範囲が狭くなってしまい、数えるのも大変です。それでもまあ、がんばれば数えることはできます。私は手元にある血球計算盤でお茶を濁していましたが、常時細菌を数えるというのなら細菌用に改良された計算盤もあって、こちらは引いてある線は同じなんですが、スライドグラスとカバーガラスの間の「厚み」が0.02 mmとより「薄く」なっていて、細菌を観察するときにピントを頻繁に動かさなくてもよくなっています。ただし、体積が変わりますから、計算間違いに注意ですぞ。
*気体中や液体中にある微粒子が、熱運動によって動く液体や気体の分子に衝突され続け、不規則に動かされる現象のこと。
死んだ菌と生きている菌の見分けがつかない!
培養細胞を数えるときには、トリパンブルーという染色液を用います。これ、青い液体なんですが、生きた細胞には取り込まれず、死んだ細胞だけが青く染まります(図4)。なので、白く光っている細胞だけを数えることで、「生細胞数」を求めることができるんです。

[理化学研究所バイオリソース研究センター (RIKEN BRC):トリパンブルー染色による計数法(細胞の生死判定).培養マニュアル,〔https://cell.brc.riken.jp/ja/manual/stain_count〕(最終確認:2025年9月4日)より引用]
ところが細菌の場合、このような生きている菌と死んでいる菌を染め分けるような、具合がいい染色液がありません。なので、顕微鏡を用いるこの方法では「細菌の数」は数えることができるのですが、生きた細菌(増殖力のある細菌)なのか、死んだ細菌(増殖力のない細菌)なのかの区別ができないんです。やはり「生細菌数」を数えたくなりますよねえ。さすがにこれは、培養しないとわかりません。
「生きた菌」だけを数えるには?
液体中に浮遊している、生きている細菌の数を数えるには、その液を平板寒天培地に塗り拡げる方法(塗抹法)と、シャーレにその液を移してから溶けた寒天を流し込んで混ぜ、固めてしまう方法(混釈法)ってのがあります。混釈法の方が理論上はすべての菌を培養することができるので正確といわれています。というのは、塗抹法の場合には塗り拡げるための器具に菌液が付着してしまうロスが避けられないからです。ただ混釈法の場合、後から注ぐ寒天の温度が高いと菌が死んでしまいますし、緑膿菌のような偏性好気性菌の場合、寒天に埋まってしまったコロニーは針の先ほどの小ささで、数えるのに慣れがいると思います。私のようなタイプには、塗抹法の方が数えやすいですねえ・・・。
とろろ御用達、便利アイテム
図5は私が塗抹法で使っている、菌液を塗り拡げるためのディスポの「コンラージ棒(コンラッジ棒)」です。プラスチック製でT字型カミソリのような形をしています。これ、昔はガラスをL字型に曲げたやつを滅菌して使い回していたようです。うちの教室にはまだまだたくさん残っていますよ。

シャーレに菌を塗るときには、もちろん片手で持ってクルクルしてもいいんですが、「秘密兵器」のターンテーブルもあります(図6)。

うちにあるのは手動式で白いお皿の部分を回すのですが、電動式のやつもあって、その場合はペダル操作で回転をオン・オフできるようになっています。100枚以上塗らないといけないときは電動式が重宝されそうです。
実際に細菌を数えてみよう
それでは、ご紹介してきた方法で生きている細菌の数を調べてみることとしましょう。試しに黄色ブドウ球菌を塗抹法で培養したら図7のような感じになりました。さあ、まずはコロニーの数を数えましょう!

「数取器」を使ってアナログにカウント
通常、菌液は10倍ずつの希釈系列を作り、その菌液100マイクロリットル(μL)を1枚の寒天培地の表面に塗抹します。1枚あたりだいたい、30個から300個あたりのコロニーができるくらいが最も正確に定量できるといわれており、いくつか塗抹したうち適切な数のコロニーができた平板を「採用」してカウントするわけです。さて、あなただったらどうやって数えますか?
どのコロニーを数え終わったかわからなくなりますので、我々は通常シャーレを裏返して、数え終わったコロニーにサインペンで印をつけていきながら数えていきます(図8)。右手にサインペン、そして左手には「カウンター(図9)」を持ちます。そうです、遊園地の入口で入場者数を数えるときに使っているようなやつ、あるいは年末の紅白歌合戦、NHKホールで日本野鳥の会のメンバーが会場の「赤」「白」のうちわを持っている人の数を数えるときに使っているようなやつです(手元は見たことありませんけど・・・)。日本語では「数取器(かずとりき)」っていうんですって。知りませんでした。


このコロニーカウント、実はいろいろマニアックなデバイスがあって私、今までいろいろ試してきました。「右手にサインペン、左手にカウンター」というわけなので、じゃあそれをいっしょにできないか、というのが図10のようなものです。

いわゆる「コロニーカウンター」です。これ、サインペンでコロニーに印をつけると、サインペンが少し凹んでスイッチを押し、ピッという音が鳴って液晶の数字が1つ上がるようになっています。実験器具カタログで初めてこれを見たとき、すごい発明だ! と思って喜んで買ってみたのです。ところが、スイッチが押されるのにある程度のストロークが必要で、急いでカウントすると空打ちしてしまうことがありました。それでイライラしてしまって、結局両手のほうがいいじゃん、となった次第・・・。まあ、普通はそこまで急ぐ必要はないんですよ、私が「せっかち」なだけで・・・。ちなみに、関西弁ではせっかちのことを「いらち」って言います。真ん中の「ら」にアクセントを置いてください。
自動での計測は意外に難しい
さきほどの「コロニー」の写真を見て、ピンときた人がいるかもしれません。この写真、画像解析したらコンピューターがコロニーの数を数えてくれるんではないか、と。そうなんですよ。実はコロニーを数える画像解析ソフトウェアというのも、そこそこ昔から発売されています。さらに写真撮影装置とコンピューター、ソフトウェアが一体化した全自動の専用機もあるんです(図11)。しかし、人間の目にはコロニーとゴミの見分けは簡単ですが、ソフトウェアではなかなか難しいのです。また、2個のコロニーが隣接すると「ひょうたん型」になります。3つだと「三つ葉のクローバー」みたいになっちゃうこともあります。人間はそれが2つ、3つのコロニーであると正確に判断できるんですが、画像解析ソフトはそう簡単にはいきません。いろいろパラメーターの設定が必要なんです。実はこれは昔から試行錯誤されていて、たとえば直径の範囲を決めたり、真円度といって、丸い物体の縦と横の長さの比を計算して丸くないやつはゴミと判断したり、というような計算処理をするわけです。

そうやって数えた数字を、希釈倍率を考えながら換算します。また、1枚に接種した液量(塗抹法の場合は0.1 mLくらいです)も換算に用います。たとえば原液を100倍希釈して0.1 mL接種したプレートにコロニーが34個できた場合、原液に含まれる生菌数は、34 x 100 x 10 = 34,000個/mLになります。この単位は「コロニー形成単位」cfu = colony forming unitと呼ばれ、34,000 cfu/mLと書きます。しかし、1つのコロニーを作る菌を単純に「1個の細菌」とも言いにくいのです・・・。たとえば双球菌で2個が常に1セットになっているような菌の場合、おそらくその2個セットで1つのコロニーができるはずです。同様のことは複数の菌が常に絡まっている結核菌などでも言えるかと思います。1個1個の菌をキレイに分けるというのも簡単そうで難しいので、菌の「個数」というよりは、「1つのコロニーを作ることができる最小単位」と呼ぶ方が正確だろう、ということですね。
今回は細菌の数え方についてお話ししました。では、細菌よりもっと小さなウイルスの場合はどうするとよいのでしょうか?もちろん、電子顕微鏡を用いて数を数えることも不可能ではないでしょうが、実際にはなかなか困難だと思います。次回は、先人たちが工夫して考えてきた「ウイルスの数え方」をご紹介します。
1)Bianconi E, Piovesan A, Facchin F, et al. : An estimation of the number of cells in the human body. Annals of Human Biology 40(6): 463-71, 2013