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看護実践につながる薬理学教育をめざして :「“薬”に強い看護師」を育てるために『NiCE薬理学』に込めた思い

看護実践につながる薬理学教育をめざして :「“薬”に強い看護師」を育てるために『NiCE薬理学』に込めた思い

2026.03.12荻田 喜代一(摂南大学名誉教授)

 2022年度より開始した「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」の第5次改正を受けた新しいカリキュラムでの教育も、完成年度を迎えています。第5次改正では、専門基礎分野(人体の構造と機能、疾病の成り立ちと回復の促進)について、3年課程においては1単位増の16単位となりました。この背景として、「解剖生理学や薬理学等を充実させ、臨床判断能力の基盤を強化するための講義・演習の充実を図る必要がある」1) ことが挙げられています。専門基礎分野で学修する知識を、臨床での看護実践能力につなげるためにいかに教授するかは、これまでもこれからも、看護基礎教育において重要な課題の一つではないでしょうか。
 さて今回、『看護学テキストNiCE薬理学』(南江堂)の編集をされた荻田喜代一先生(摂南大学名誉教授)にご寄稿いただき、看護基礎教育において解剖生理学および薬理学を担当された経験をもとに、看護実践につながる薬理学教育についてお聞かせいただきました。

NurSHARE編集部

はじめに

 長年にわたり薬剤師養成教育に携わってきた私が看護基礎教育にかかわる契機となったのは、約20年前、某病院附属看護専門学校(3年課程)において解剖生理学・薬理学の非常勤講師を務めたことでした。看護基礎教育における薬理学の学修時間の短さに戸惑い、「限られた時間で何を、どのように教えるべきか」と試行錯誤した当時のことを、今でも鮮明に覚えています。
 その後、疾病構造の変化、超高齢社会の進展などを背景に、看護基礎教育の質向上が求められる中で、摂南大学においても看護学部の設置が決定され、これまでの看護基礎教育の経験を踏まえて、その設置にかかわることとなりました。看護学部設置の検討過程において、病院長や看護師長から「”薬”の教育を充実させてほしい」「臨床現場では”薬”に強い看護師が求められている」といった声を多く耳にしたのです。これらの言葉は、臨床現場からの切実な要請として、私の中に強く残りました。そこで、摂南大学看護学部の教育方針として、「”薬”に強い看護師を養成する」ことを掲げることにしました。 

《余談:「“薬”に強い看護師の養成」という教育方針は、医療従事者からは非常に好意的に受け止められました。一方で、受験生を含む一般の方々には、必ずしも強い印象を与えなかったようです。というのも、一般には「看護師は薬のことを理解していて当然」と考えられており、それを教育の強みとして打ち出す意義が十分に伝わらなかったためだと思われます。しかし、まさにその「当然のこと」を確実に身につけさせることこそが、看護基礎教育における重要な使命であり、「“薬”に強い看護師」の養成は社会にとって本来、欠かすことのできない要請なのだと実感しました。》

 では、看護基礎教育において “薬”の教育はどのように進めていくべきなのでしょうか。本稿では、看護基礎教育における薬理学学修の重要性を改めて整理するとともに、その現状と課題、さらに学びを効果的に進めるための方法について、『看護学テキストNiCE薬理学』の活用も含めて紹介します。

看護基礎教育における“薬”の教育の意義・目的

 医療の高度化と急速な高齢化の進展に伴い、薬物療法は年々その複雑さを増しています。高齢者における多剤併用患者の増加、ハイリスク薬の使用拡大、さらには在宅医療や地域包括ケアの推進などにより、“薬”を取り巻く医療環境は大きく変化しています。このような状況において、患者(対象者)に最も近い立場で日常的に薬物療法に関与している専門職こそが看護師であると言えます。
 私は長年にわたり、病院の医療安全管理委員会の外部委員を務めてきましたが、その経験の中で、薬物療法に関連する医療事故やインシデントの多くが看護師を含む多職種での連携や医療システム全体と深く関係していることに強い印象を受けてきました。具体的には、投与量や投与速度の誤り、投与経路の取り違え、投与タイミングのミス、与薬後の観察不足、さらには患者確認や情報共有の不十分さ(アレルギー歴の見落とし、副作用の初期症状への対応遅れなど)といった事例が挙げられます。一方で、看護師が薬物療法に関するリスクを察知し、重大な事故を未然に防いだ事例も数多く存在します。こうした実態を踏まえると、看護学生が薬理学を学ぶ意義は、これまで以上に重要性を増しています。
 薬物療法における看護業務に関連した医療事故・インシデントの多くは、単なる不注意や経験不足、あるいは知識不足のみで説明できるものではありません。その背景には、薬理学的知識と看護実践(臨床判断や患者理解)とが十分に結びついていないという構造的な問題があります。言い換えれば、基礎教育段階で「看護師として薬剤をどのように捉え、どのように扱い、どのような視点で観察するのか」を体系的に学ぶ機会が十分に確保されてこなかったことの表れなのではないかと考えています。
 これらの課題を踏まえると、薬物としての作用を学ぶことを目的とした薬理学教育から、「この患者において、この薬が、どのような影響を及ぼすのか」という臨床的視点を重視した学びへと転換する、いわば学びのパラダイムシフトが求められているのではないでしょうか。年齢、腎・肝機能、併存疾患、生活習慣といった医学的要因に加え、患者の価値観や生活の質(QOL)といった個別性を踏まえ、看護師ならではの視点で薬物療法を理解し、観察・支援できる力を育成することが、現代の看護基礎教育において不可欠であると考えます。

看護基礎教育における“薬”の教育の現状と課題

 看護基礎教育課程では“薬”の教育は、「薬理学1科目2単位」として配置されている場合が多いのではないでしょうか。このように、看護基礎教育における“薬”の教育の課題として、学修時間の短さがしばしば指摘されます。
 看護基礎教育において“薬”の教育に十分な時間を確保できない現状は、カリキュラム全体が過密化する中で容易に解決できる課題ではありません。そうであれば、限られた時間の中で、何をどのように学ぶかという「教育方略」の改革こそが重要になります。すなわち、看護学生にとって本当に適切な教材とは何か、学ぶべき内容は何か、そしてどのような方法で学ぶのか―これらを再考し工夫することが、今まさに求められている教育改革と言えるでしょう。

《余談:私が考える課題解決のコツは、①その時点では絶対的に解決できないことを手放すこと、②何のための課題解決なのか(最上位の目的)を明確にすること、③仲間を増やし、良いチームをつくること。》

 薬理学は、看護学生にとって「重要であることは理解しているが、苦手意識をもちやすい科目」の代表格と言えます。作用機序、薬物動態、薬効分類、副作用など、覚えるべき用語や概念が多く、臨床経験の乏しい学生にとっては、学修内容が看護実践と結びつきにくいという現実があります。しかし一方で、患者の薬物療法を支援するうえで、与薬、観察、副作用の早期発見、患者への説明といったすべての場面に、薬理学的理解が不可欠です。
 看護学生が薬理学を学ぶ意義(目的)は、「国家試験に合格するため」ではなく、将来、患者の安全を守る専門職として適切に判断できる力を身につけることにあります。「“薬”に強い看護師を育てる」というときの「“薬”に強い」とは、単に薬剤の名称・知識を多く知っていることではありません。与薬の6R(正しい患者、正しい薬剤、正しい目的、正しい用量、正しい用法、正しい時間)を確実に実践するために、次のような臨床現場での思考につながる薬の理解をもつ看護師こそが、真に「“薬”に強い看護師」だと私は考えています。

なぜこの患者にこの薬剤が使われているのか
どのような作用を期待しているのか
この患者において、この薬剤では、何に注意して観察すべきか
異常が起こったとき、どのように考え、行動すべきか
医療チームでどのように連携すべきか

 このような理想と現実の狭間で、多くの看護教員が「本当は、もっと臨床に結びつく薬理学を教えたい」「暗記中心ではなく、考えさせる授業をしたい」と感じておられるのではないでしょうか。しかし現実には、限られた授業時間、学生の基礎学力のばらつき、国家試験対策との両立といった制約があり、理想通りの授業を実現することは容易ではありません。それでもなお、あきらめることなく悩み続け、情熱をもって挑戦し続ける姿勢こそが、看護基礎教育を前進させる原動力になると信じています。

“薬”の教育への挑戦:摂南大学の事例と『NiCE薬理学』の活用

 摂南大学看護学部では、「“薬”に強い看護師の養成」を目標に、“薬”の教育に関する2科目4単位(薬理学、薬物治療学)を配置しています。これらの授業において、テキストとして『NiCE薬理学』を用い、薬物療法全般を体系的に学修できるよう設計しています。
 『NiCE薬理学』は、前述したような看護基礎教育現場における現実的な課題意識を共有したうえで、「看護学生にとって本当に必要な教材とは何か」という問いから企画されました。その根底にある考え方は、看護実践に生きる薬理学教育の鍵は、「“薬”そのもの」を学ぶことではなく、「患者と“薬”の関係」を軸に学ぶことにある、という点です。そこで本書では、薬物療法の理論を基盤としつつ、看護実践に役立つポイントや根拠を豊富に取り上げ、臨床場面を想起しやすい構成と解説を重視しました。とくに、「なぜ看護師にとってこの知識が必要か」という視点を随所に盛り込み、学びの意味づけが明確になるよう工夫しています。また、中には基礎学力、とりわけ文章読解力の低い学生もいるという課題を踏まえ、説明文は簡潔にし、図説や表を充実させることで、視覚的にも理解しやすい教材となるよう配慮しています。
 薬物療法の理解は、いわゆる座学のみで身につくものではなく、臨地実習などを通した実践的な学びの場が不可欠です。『NiCE薬理学』では、実習など臨床現場で実際に目にした薬剤を学生自身が主体的に学び直せる教材となることも意識し、薬物および薬物療法に関する厳選した最新情報を収載しています。そのため、臨地実習の前後における学修ツールとして活用し、実習で出会った患者が使用している薬剤を本書で振り返ることで、知識が現実の経験と結びつき、理解をより深めることができるようにしています。さらに、卒業後も臨床現場で手元に置いて活用していただきたいものです。

『NiCE薬理学』の特長(改訂第2版の「はじめに」より抜粋)

1.看護実践で役立つ薬物療法の基礎的内容の充実
 「 第1章 総論」および「第20章 薬物療法における看護のポイント」において看護師のための薬物療法の基礎的内容と事例を充実し、臨床現場(臨地実習等)でも活用できるように工夫した。第2~19 章の各論においても「薬物療法の方針」「看護のポイント」を充実し、臨床現場に即した薬物療法の基本的内容を学べる機会を増やした。また、看護職として勤務した際にも活用できるように、疾患別に治療薬を網羅し、その特色や副作用・使用上の注意等を簡潔に記載した。

2.図説と表の充実
 第2~19 章の各論において、薬物の作用機序を図解し、薬物(薬剤)の重要なポイントを表にまとめ、薬物の薬理作用や使用上の留意点などが理解しやすくなるように工夫した。

3.学修効果を高める工夫
 各章のはじめに学修者の到達目標を明確にするための「LEARNING OUTCOMES」をあらたに追加した。また、網羅的な薬剤の表の掲載とともに、本文では臨床でよく使用される薬剤を厳選して解説した。さらに、図・表の充実に加えてコラム類を追加・充実させ、読者の興味を惹きながら薬剤の薬理作用・副作用・臨床適用等の理解を高めるように工夫した。

※本書の目次詳細は、こちらの「サンプルを見る」からご確認いただけます。 

 多職種連携教育の視点も、『NiCE薬理学』の重要な柱の一つです。看護師が薬理学を学ぶ意義は、ほかの職種と同一の知識をもつことにあるのではなく、共通の言語を用いながら、自らの専門性に基づいて対話し、疑問や気づきを共有し、患者にとって最善の選択を多職種で共に考えられるようになることにあるでしょう。本書では、薬剤師や医師との連携を想定し、看護師が医療チームの中で「つなぐ役割」を担う重要性についても伝えています。
 摂南大学では、多職種連携教育の一環として、看護学生と薬学生が患者安全演習、患者コミュニケーション演習、協働臨地実習などに共に取り組んでいます。薬物療法に関連した医療事故・インシデント事例を扱う患者安全演習や協働臨地実習での学びを通して、看護学生と薬学生がインシデント回避のための留意点や患者の薬物療法の実際を実感として身につけることができると、私は信じています。

おわりに:アウトプット重視型授業デザインのすすめ

 “education” の語源はラテン語の educere や educare であり、「前へ導く」「育てる」「成し遂げる」といった意味をもつと言われます。初代文部大臣である森有礼[もり・ありのり]は education を「教育」と訳しましたが、福沢諭吉は『文明教育論』の中で、「『教育』の文字はなはだ穏当ならず、よろしくこれを『発育』と称すべきなり」と述べています。これらの考えに共通しているのは、education とは単なる teaching(教えること)ではない、という点です。
 米国の哲学者・教育学者であるジョン・デューイ(Dewey J)も、「人間の自発的な成長を促すための環境を整えることが教育の役割であり、教師が知識を一方的に授けるよりも、学習者が知識を求める動機を育む学校こそが真の学校である」と述べています。すなわち、真の教育のためには、学生が「教えられる主体」から、自ら「学ぶ主体」へと転換するパラダイムシフトが不可欠なのです。
 このパラダイムシフトは、教員による知識の伝達(インプット)にとどまらず、学生のアウトプットを重視した授業設計によって実現されます。教員は知識を与える存在ではなく、学びを促進するファシリテータとして、学ぶ目的・内容・方法を工夫した「学びの場」を提供する役割を担います。その中で、学生はアウトプットを通じて気づきや疑問を生み出し、学びを深化させていくのです。
 その典型的な授業デザインが反転授業です()。たとえば、授業前に学生が授業範囲の基礎的内容についての正誤問題等を教科書等で調べて回答し(知識をインプットする事前学修)、授業では教員が追加説明したのちに、その知識を活用したアウトプットにより理解を深めます。とくに私は、学生に「疑問をもつクセ」を身につけてもらうことを重視しています。授業では、学んだ内容に対して生じた疑問を徹底的に出し合うグループワークを取り入れ、疑問を起点とした学びを実践しています。

図 反転授業の一例

 看護基礎教育においても、疑問から始まる学びを推進することが重要であると考えます。学生が「なぜこの薬が使われているのか」「この患者において何に注意すべきか」と問い続ける姿勢を身につけることが、将来、薬物療法に主体的に関与し、患者の安全とケアの質向上に貢献できる看護師の育成につながると期待しています。

 
引用文献
1)厚生労働省:看護基礎教育検討会報告書(令和元年10月15日),p.9-10,〔https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/000557411.pdf〕(最終確認:2026年2月20日)
 

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追って、荻田先生もしくはNurSHARE編集部よりご回答いたします。

(例:看護学科の薬理学の授業内容や方法についてのご質問・授業のご依頼、初年次教育の授業や研修のご依頼、授業設計の研修のご依頼など)

NurSHARE編集部

荻田 喜代一

摂南大学名誉教授

おぎた・きよかず/薬剤師。医学博士(大阪市立大学)。摂南大学薬学部において、約40年間、グルタミン酸受容体シグナル、海馬神経細胞死と再生、難聴とその予防薬の開発の研究、ならびに解剖生理学・薬理学全般の教育に従事した。そのうち、約10年間は看護基礎教育課程において解剖生理学・薬理学の教育にも従事した。大学での役職としては、薬学部長、教務部長、副学長(教育改革担当)、学長を歴任し、教育改革ならびに大学運営に尽力した。また、各種学会では、日本薬学会理事、日本神経精神薬理学会理事、日本薬理学会各種委員などを歴任し、日本薬理学会名誉会員、日本神経精神薬理学会功労会員である。摂南大学の退職後は、これまでの経験を生かして市民講座講師、大学教育改革支援、フリースクールのアドバイザー、親子関係コラムの執筆などを行っている。趣味は畑での野菜栽培。

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