『看護学テキストNiCE母性看護学Ⅰ・Ⅱ』(南江堂)は、このたび改訂第4版が刊行となりました。第Ⅰ巻、第Ⅱ巻それぞれの筆頭編集を担われた齋藤いずみ先生(神戸大学名誉教授)、大平光子先生(周南公立大学人間健康科学部看護学科 教授)に、母性看護学の教育として大切にしてこられたこと、そして本書に込めた思いをうかがいました。
※本インタビューは 2026 年 1 月に行ったものです。
各書籍の詳細情報は下記をご覧ください。
『NiCE母性看護学Ⅰ 概論・ライフサイクル 改訂第4版』
『NiCE母性看護学II マタニティサイクル[Web動画付] 改訂第4版』
(NurSHARE編集部)
看護基礎教育のなかで、「母性看護学」をどう位置づけるか
― まずは、母性看護学の基礎教育についてお感じになっていることをお聞かせください。
齋藤 私が何より大事にしているのは、母性看護学は看護学の基盤をなす重要な構成要素だということです。ですから本書においても、基礎教育課程の学生が学ぶものであることを、書く側が改めてきちんと意識していなければならないという思いで編集・執筆しました。
母性看護学と助産学とは、切り離せない重要な関係にありますが、助産学よりも基礎として学ぶ科目である母性看護学を担当する教員は、学生が母性看護学に関心をもち“おもしろい”と感じるように導くことが大切だと思っています。そこから人間の深い理解が始まります。学生には、生命の厳粛な営みに感動し、科学としてのおもしろさも感じていただきたいです。それが、母性看護学の学問の広がりや発展につながります。
大平 私は長年、教育・研究の現場におりますが、学部教育として助産課程も担当していた期間が長くありました。それを経て最近は久しぶりに、母性看護学のみの学部教育に携わっており、看護学における母性看護学という学問分野の重要性を改めて感じています。社会の構造や看護基礎教育の枠組みがどのように変化していくとしても、「大きな柱の一つ」としての母性看護学の重要性は変わらないと思います。昨年度改訂された「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」1) に示されている「対象を総合的・全人的に捉える」ための資質・能力(人々のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する社会問題を理解し、対象者の社会生活を支える看護を説明できる【GE-07-04-01】など)の修得という点でも、母性看護学での学修内容は重要な要素として位置づくと考えています。
一方で、これは私の個人的な課題でもあるのですが、齋藤先生が助産学との関係性に言及されたように、母性看護学ではどこまでを扱い、助産学ではどこからを扱うのか、その線引きは難しいと感じています。国家試験問題などを見ても、周産期・マタニティサイクル中心の教育内容から全面的には抜け出しきれていない部分も感じられ、基礎教育における母性看護学の役割を常に考えています。
マタニティサイクルももちろん大事にしながら、母性看護学の教育においては看護師がかかわるという点で、人々のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスに関与するのだという自覚・責任を育むことが必要です。つまり、性別や年齢を問わず、すべての人のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスにかかわるのが母性看護学ということです。
齋藤 おっしゃるとおりですね。基礎教育の課題としては、実習の制約もありますね。対象者が少ない、受け入れ施設が限られる、といった状況は多くの教育現場が直面していると思います。だからこそ、学内でどこまで準備できるか、そして実習で得た限られた体験をどう統合するか。そこまで含めて、母性看護学を看護基礎教育の「基盤」として成立させることが重要になっていると感じています。
「母性看護学」を捉え直す
― そのような課題、また社会情勢の変化を踏まえ、今回の本書の改訂で重視されたポイントを教えてください。
齋藤 私は今回の改訂では、子どもを産み育てるということに関して、社会の流れが以前にも増して変化していることを強く意識しました。たとえば2025年4月から、男性労働者の育児休業取得率等の公表が、従来の従業員1,000人超の企業のみにとどまらず、300人超1,000人以下の企業にも義務づけられたことは、その象徴と言えるでしょう。子育ては、男性が“手伝う”ものではなく、両性で共に主体的に担うという方向性がより明確化してきています。すなわち、母性看護学の対象は妊産褥婦に限定されないということが、社会の動きからもよりはっきりとしてきたわけです。
そういった変化を踏まえ、第Ⅰ巻では「母性」とともに「父性」の概念を紹介し、さらに「親性」へと思考が進むよう解説しました。また、母性看護学の対象の広がりという点では、「包括的性教育」や「プレコンセプションケア」の項目を新設しました。いずれも、妊娠・出産・産褥の当事者およびそのパートナー等にとどまらず、将来を見据える子ども・若者に対して教育やケアを行うというものです。
大平 母性看護学の対象は妊産褥婦に限定されないという初版から大事にしてきた考えは、第Ⅱ巻『マタニティサイクル』でも今回の改訂においていっそう意識しました。たとえば「夫/パートナー」「夫婦/カップル」と併記するなど、家族内の固定的な関係を前提にしない表現としています。加えて、近年子育てのあり方として注目されている「コペアレンティング*」を紹介したほか、「父親になっていく過程のアセスメントと援助」という項目を新設し、「母親になっていく過程のアセスメントと援助」と同列として扱いました。妊産褥婦のみではなく、周囲の人たちも含めた支援のあり方を考える必要性を、より明確に示せたのではないかと思います。
*コペアレンティング:夫婦/カップルで協働して育児を行っていくこと。一緒に親になっていくという意味。
齋藤 第Ⅰ巻でも第Ⅱ巻でもこのような視点が反映されているのは、大平先生と私、お互いの中心にある考え方が同じ方向を向いているからだと思います。
大平 本当ですね。「母性」という言葉が本来もつ大切な価値は守りながらも、現代の学生が対象として学ぶべき範囲は確実に広がっています。
「母性看護学」という言葉は、長年親しまれてきた大切な名称です。ただ私自身は、現任校において看護学科を設置する際に、その大切にしてきた名称を思い切って手放し、「セクシュアルリプロダクティブ看護学」とする挑戦をしました。それは、これまでの母性看護学を根底から覆そうとするものでは決してありません。むしろ、妊娠・出産の当事者の看護という枠にとどまらず、年齢や性別にとらわれないすべての人のセクシュアルリプロダクティブを支援するという、これまでも母性看護学が大事にしてきた概念として、母性看護学を捉え直す必要があるのではないかと考えたからです。
講義・演習と、実習での学びの統合を支える教科書に
― 各教育現場における授業・実習などで、本書をどのように活用していただくとよいでしょうか
大平 本学における母性看護学の授業の構成としては、「セクシュアルリプロダクティブ看護学概論」(8回)の後に、「セクシュアルリプロダクティブ看護方法」(30回)を置いています。マタニティサイクルに偏りすぎないよう、30回のうち7回はセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツにかかわる内容としています。
実習についても、母性看護学実習=産科病棟や妊婦健康診査、という固定観念にとらわれないことが大事だと思っています。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの対象となる方は、妊産褥婦さんにとどまらず、婦人科疾患のある患者さんがメインとなります。ですから、婦人科外来でがんの患者さんに出会う経験などを通じて、学生が「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは何か」を自分の学びとして引き寄せられることがあります。
齋藤 それは素晴らしい授業設計ですね。さきほど私が挙げた実習の制約という課題への方策にもなりますね。
大平 ありがとうございます。教科書の使い方としては、「教科書は学生が自分の力で読むもの」という前提で、授業では教科書の内容をなぞるのではなく、知識をいかに活用できるようにするか、支援や技術のイメージをどうもってもらえるか、といった部分に時間を使っていただくとよいと思います。
「モデル・コア・カリキュラム」でも、Knows/Knows How/Shows How/Dose といった学びの到達度(いわゆるMillerのピラミッド)が整理されていますよね。とくに第Ⅱ巻はマタニティサイクルのなかでの支援方法や看護技術の解説が多いので、「知識をもっている」だけで終わらず、どう支援するのか、どう実践につなげるのかをイメージできるように、写真や図を多用しています。また、前回(改訂第3版)から収載した動画においては、実際の臨床実践における看護師の視点がわかるように撮影したものもあります。学生に「ここを見てほしい」というポイントが伝わりやすく、学生の自己学習にも使っていただきやすいと思います。限られた実習での体験を補完する役割も担えると思います。
齋藤 あとはやはり、事例は非常に重要な要素だと思います。実習で十分な体験をもつことが難しいなかで、どう教えればよいかと悩まれることもあるかもしれません。まずはご自身が臨床で出合った事例、そして本書に載せた事例も含めて、学生に語っていくのがよいと思います。
抽象的に一般論を積み上げるよりも、具体的に踏み込んで、「このとき看護師は何を見て、どう考えて、どうかかわったのか」を丁寧にたどっていくと、学生もイメージをもちやすくなるのではないかと思っています。
多様性・包摂性の時代に、母性看護学を“自分ごと”にする
― 最後に、母性看護学を教える教員・学ぶ学生にメッセージをお願いします。
齋藤 私が一番気をつけていることは、母性看護学に対して“アレルギー”をもってしまう学生をつくらないことです。多様な学生が学ぶ時代になっていますので、教える側もすべてのジェンダーの学生が学んでいることを改めて意識しながら、できる限りわかりやすく、具体的に伝えていくことが大事だと思います。母性看護学は、ともすると「自分には関係がない」「苦手だ」と感じる学生が出てしまうことがあります。だからこそ、学生が身近に感じられるところから入り、少しずつ視野を広げられるようにしたいですね。
大平 私は、多様性や包摂性を尊重した現代では、従来の枠組みだけでは対応しきれない場面が増えていると感じています。だからこそ、「男女」「父親/母親」といった区別にこだわらず、その人の生活や意思を中心に据えて対象を捉える視点が必要になるのだと思います。母性看護学は、もともと性別や年齢にかかわらず多様な価値観や多様な生き方を大切にしてきた分野でもあります。その蓄積を、今の学生に届く言葉と構成で示していくことが重要だと考えています。
また、教員の皆さまには、教科書を軸にしながらも、学生が「自分のこと」として考えられる入り口をつくっていただきたいです。ご自身が臨床で出会ったあの人のことを丁寧に語る、あるいは教科書の事例を読ませて問いを立てる。それだけでも学生の学びは大きく動きます。学生の皆さんには、とくに第Ⅰ巻は読み物としてもすてきな価値がありますので、ぜひじっくり読み、実習での体験や第Ⅱ巻で得た知識と行ったり来たりしながら、学びを深めていただければと思います。
齋藤 繰り返しになりますが、母性看護学は女性だけを対象にする学びではありませんし、これからは、よりいっそうそうなっていくと思います。マタニティサイクルを大切にしながら、ライフサイクル全体、そして多様な対象へ―。その広がりのなかで、学生が「自分に関係がある学び」として母性看護学に出会えるように、教える側も工夫していけたらと思っています。
(おわり)
1)看護学教育モデル・コア・カリキュラム(令和6年度改訂版)【資質・能力】,〔https://www.mext.go.jp/content/20250317_mxt_igaku-000040938_1.pdf〕(最終確認:2026年2月19日)

齋藤いずみ(さいとう・いずみ)
神戸大学名誉教授
筑波大学大学院博士後期課程修了(医学、博士)。日本赤十字社医療センターにて助産師として勤務し、膨大な臨床事例を経験。その後、北海道大学医療技術短期大学部で教員となり、以降、愛媛県立医療短期大学、北海道医療大学を経て神戸大学に勤務する。現在は神戸大学名誉教授。また、放送大学客員教授(母性看護学主任講師)、国立研究開発法人科学技術振興機構 創発的研究アドバイザーも務めている。
大平光子(おおひら・みつこ)
周南公立大学人間健康科学部看護学科 教授




