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未来をつくる子どもとその家族を支える人を育てる:『NiCE小児看護学 (改訂第5版) 』刊行記念インタビュー

未来をつくる子どもとその家族を支える人を育てる:『NiCE小児看護学 (改訂第5版) 』刊行記念インタビュー

2026.02.12NurSHARE編集部

 『看護学テキスト NiCE 小児看護学』(南江堂)はこのたび、これまでの2冊構成から3冊構成へと大きく変更した、改訂第5版が刊行となりました。本書を監修・編集された二宮啓子先生(神戸市看護大学 教授)と今野美紀先生(札幌医科大学 教授)に、昨今の小児看護学をとりまく状況や教育上の課題を踏まえて、本書の編集に託した思いをうかがいました。

※本インタビューは 2026 年 1 月に行ったものです。

各書籍の詳細情報は下記をご覧ください。
『NiCE小児看護学Ⅰ 小児看護学概論 改訂第5版』
『NiCE小児看護学Ⅱ 小児看護支援論 改訂第5版』
『NiCE小児看護学Ⅲ 小児看護技術[Web動画付]改訂第5版』

(NurSHARE編集部)

小児看護学の基盤となる「子どもの成長・発達」「家族」「権利」の視点

― まずは先生方が小児看護学の教育において大事にされている点について、教えてください。

今野  本書の第Ⅰ巻から第Ⅲ巻すべての土台となっていることですが、「子どもの成長・発達」は小児看護学の根幹であると思っています。成長・発達を理解していなければ、適切なコミュニケーションを図ることはできませんし、バイタルサイン測定でもこの年齢でこの値は正常かどうかが判断できません。身体的・心理的・社会的、どの視点でも成長・発達の理解がアセスメントの土台となり、看護実践につながっていくと思います。 

また、小児看護の対象は子どもだけではありません。親の意思決定や子育て支援が子どもの生活や治療に大きく影響するので、家族を基本単位とした考え方で子どもをとらえることが大切です。         

二宮  小児看護学の基礎教育における課題の一つとして、授業時間の制約が挙げられます。看護基礎教育全体のカリキュラムが過密化するなか、小児看護学に割り当てられる時間は減少しています。ですから、必要な知識や考え方のすべては教えられないという前提に立ち、限られた時間でいかに効率的に学ばせるかが課題になっています。「何を、どこまで、どのように教えるか」という視点で考えるとやはり、今野先生がおっしゃった子どもの成長・発達の知識や、家族を基本単位とした考え方は小児看護学としてはずせません。もう一つ、「子どもの権利」を大前提とすることも、ていねいに教えたいと考えています。

「少子化×医療の進歩」がもたらす小児看護学実習環境の変化

― 授業時間の制約だけでなく、実習環境の変化も教育上の課題の一つのようです。

二宮  そうですね。少子化はもとより、小児医療の発展で子どもの入院件数が減り、小児科病棟が混合病棟化したり閉鎖したりして、ますます実習場所の確保が難しくなってきています。本学では2週間の小児看護学実習で原則「1学生1受け持ち児」を目標にしていますが、現実には2人で1人の子どもを受け持つこともあります。ほかにも病棟に出る学生数を減らすため、小児科外来や特別支援学校での実習を組み合わせたり、NICU の見学や保育所実習を組み込んだりするなど、学校ごとに工夫をされていることと思います。

今野  入院自体が少なくなり、さらに入院期間も短くなっています。一方で、長期入院する子どもは病状が重症・複雑化していたり、また、家庭環境やメンタルヘルスの不調などもあって、学生の学習段階に合った受け持ち児に出会うことが難しい現状もあります。ですから、短い期間のかかわりでも良質な交流ができて、看護的視点で考え実践できるように育てるためには、講義・演習や学内での事前学習に加え、学生が実習で体験したことを、時に教員が問いかけることにより学生が意味づけして、学びに変える仕組みが欠かせません。

体験を学びに変えるカギは、「意味づけ」と「“自分ごと”化」

― 体験の「意味づけ」は、知識と実践をつなぐ重要なキーワードかもしれません。価値ある意味づけをするために、どのようなことが必要でしょうか。

今野  学生は知識をもっていても、その知識が普段の行動や実習での看護実践にすっと反映されるわけではないでしょう。たとえば、治療中で感染症に罹患しやすい子どもを受け持った学生が、自分自身の咳や鼻汁の症状を教員に報告することが遅れるなど、知識が行動に結びつかないことがあります。

また、概論の授業で「子どもの権利が大事」と熱く語っても、学生にとって“自分ごと”にはなりにくく、悩んだ時期がありました。そこで、たとえば学生にとってなじみの少ない話になりがちな福祉制度を教える際は、学生自身や家族がそれまでに困ったことや、その際の支えになった社会資源として何があったかを振り返り、自身の体験に置き換えて考えてもらうような工夫をしています。そこから「もし自分が苦しくなったら活用できる制度」として教科書に赤字で示されている重要用語を教えると、赤字が「覚える知識」から「意味のある知識」になるのです。

二宮  本学では学生の学びが深まるような授業の組み立てとして、2年次に「小児健康生活支援論」と「小児療養生活支論」を学び、3年次の「小児看護援助論」ではペーパーペーシェントによる演習をとおして、それまでの知識が統合されるように工夫しています。事例についてグループ内・グループ間でディスカッションしてさまざまな意見に触れることで、学生のなかで「こんな考え方もあるのか!」と思考が広がっていく様子が見てとれます。

そのうえで、実習では学生が実施したケアの評価は子どもや家族の反応に表れるので、そこをしっかり見てくるように伝え、どのような反応があったか学生に尋ねています。教員が「いい看護かどうか」を評価するのではなく、子どもと家族の反応に意識を向けることで、学生が自分の看護を振り返り、看護師としての成長につながるような支援を心がけています。

(左)第Ⅰ巻:NiCE小児看護学Ⅰ 小児看護学概論 改訂第5版
(中央)第Ⅱ巻:NiCE小児看護学Ⅱ 小児看護支援論 改訂第5版
(右)第Ⅲ巻:NiCE小児看護学Ⅲ 小児看護技術[Web動画付き] 改訂第5版
 

本書の編集方針:変わらず大切にしていること、新しくしていきたいこと

― ここまでお話しいただいたことも踏まえながら、本書の編集にあたって大事にされたことを教えてください。

今野  慢性疾患を抱えた子どもや医療的ケア児が増えているなかで、そうした子どもたちが地域で暮らしていくにあたっては、子ども自身が納得して選択できることが重要です。本書が理念として掲げる子どもの「権利」「意思決定」「主体性」への配慮は、そのような小児医療の現状に合致していると思います。

医療者は、急性期など医療が濃密にかかわるべき時期にはリーダーシップを発揮しながらも、慢性期など時と状況によっては、あくまで資源として子どもと家族の生活を支えるパートナーでありたいという、初版から継承している理念を今回も重視しています。

二宮  たとえば第Ⅲ巻「小児看護技術」では、初版をつくった当時は「看護師の視点から、子どもにどう技術を提供するか」という考えがスタンダードだったのですが、いかに子どもも家族も納得・満足できる技術を提供できるかという点を大事に編集しました。それは今もなお変わっていません。

そして、さきほども述べたとおり、必要な知識や考え方のすべてを限られた授業時間のなかで教え切ることは難しいので、教科書としては、学生が独力で読んでもわかりやすいこと、また大事な知識を網羅することも意識して、図表も多用しています。

本書に掲載している図表の例
(左)疾患ごとの経過図:成長・発達の過程を見通して子ども・家族の課題を概観できる
(中央)情報関連図:事例の子どもと家族の情報を整理する
(右)Skill表:手順に沿って根拠や注意点も確認できる
[左:第Ⅱ巻 p.207「第Ⅸ章 アレルギー疾患のある子どもと家族への看護―2.食物アレルギーのある子どもと家族への看護」/中央:同 p.211/右:第Ⅲ巻 p.242「第Ⅳ章 日常生活援助技術―7.環境調整の技術」よりそれぞれ引用]
― 今回の第5版への改訂では、2冊から3冊へと構成が大きく変わりました。各巻の特長について教えてください。

二宮  改訂に際しては、活用してくださっている読者の声をお聞きし、ニーズに沿うよう、読者のみなさんと共に新しくしていくことを大切にしています。今回、2冊構成から3冊構成になったのも、講義での使用目的に合わせて内容を整理し、コンパクトに持ち歩けるようにした結果です。

第Ⅰ巻「小児看護学概論」は、小児看護・小児医療の全体像、子どもの権利、成長・発達を中心に、子どもをとりまく環境(遊び、学習、生活、健康課題、家族や社会とのかかわり)を理解することを重視しました。子どもに特徴的な症状や、外来・入院といった状況別の看護についても、代表的な場面を網羅しています。また第Ⅱ巻「小児看護支援論」は、疾患を器官・系統ごとに章立てし、当該章の疾患・病態・治療と看護をコンパクトにまとめつつ、実習で受け持つことが多い疾患では事例を提示して解説しました。学生の学びを促すため、図表を多く活用していることも特徴です。第Ⅲ巻「小児看護技術」では今回、初対面の子どもへのあいさつ、バイタルサイン測定など、学生が実習でつまずきやすい場面の動画を収載しました。また昨今、セルフケア(セルフマネジメント)の重要性が説かれていますので、「子どもと家族のマネジメントを促す技術」が追加された点も魅力です。各巻とも、講義、演習、実習のすべての場面で活用できるようにという思いを込めています。

今野  加えて、昨年度改訂された「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」に示されている教育内容 1)も、各巻でカバーしています。たとえば、「表1 症候別看護」の項目のうち小児看護学で重要なものは第Ⅰ巻に、「表4 構造と機能、症状・徴候、疾患、検査、治療」の各項目は第Ⅱ巻で、「表3 身体機能別フィジカルイグザミネーション」も小児看護として重要な項目は第Ⅲ巻に、それぞれ適切と思われる形で組み込みました。

これからの小児看護学教育への思い

― 最後に、これからの小児看護学の基礎教育について、お二人の展望を聞かせてください。

今野  今、さまざまな少子化対策が行われているところですが、これから先、少子高齢社会はますます進展していくかもしれません。ただ、社会の構造がどう変わろうと、小児看護学の対象は子どもと家族であり、二宮先生がおっしゃったように、子どもと家族への看護実践に対する反応を振り返り学ぶという根本的な部分は決して変わらないと思います。

他方、情報化や AI との共生がさらに進む時代においては、知識を教え込むことよりも、どう活用するかを学生が考えられるようになることが大事になってきますよね。

二宮  そうですね。小児看護学は、未来をつくる子どもたちを支える分野として、大事にしていきたいと思います。もしかしたら、卒業後に小児看護の道を選択する学生は限られるかもしれませんが、「権利」「意思決定」「主体性」といった小児看護学の核はどの領域でも重要な考え方であるはずです。基礎教育としてのゴールは、実習の場で学生がいかにパフォーマンスを発揮できるかだと思っています。学生たちがなるべくたくさんの体験ができ、教員の導きも得ながら、看護師としての力を修得できるような教育が、これからも必須となるでしょう。

(おわり)

引用文献
1) 看護学教育モデル・コア・カリキュラム(令和6年度改訂版)【教育内容】,
〔https://www.mext.go.jp/content/20250317_mxt_igaku-000040938_3.pdf〕(最終確認:2026 年 2 月 3 日)
 

 二宮 啓子(にのみや・けいこ)

 神戸市看護大学 小児看護学 教授


千葉大学看護学部卒業。神戸市立中央市民病院での臨床経験を経て、千葉大学大学院看護学研究科修士課程修了(看護学、修士)。愛知県立看護短期大学小児看護学 講師を経て、千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程修了(看護学、博士)。その後、神戸市看護大学小児看護学 講師、助教授を経て、2005 年から現職。また、2001 年から日本小児看護学会評議員、理事、2014~2016 年に理事長、2020 年に第 30 回学術集会会長を務めた。

 

 今野 美紀(こんの・みき)

 札幌医科大学保健医療学部看護学科 小児看護学 教授
 

千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程修了(看護学、博士)。大学卒業後、病棟看護師としての勤務を経て、1994 年より札幌医科大学保健医療学部看護学科に勤務している。出身地である北海道では成人の喫煙率が高いことから、小児看護学の立場から子どものタバコ問題に取り組んでいる。これまでに、日本小児禁煙研究会第 9 回学術集会長、日本禁煙科学会第 17 回学術集会 in 札幌 会長、日本家族看護学会第 32 回学術集会長を務めた。
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