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第1回:ダブルケアとの出会い-支援団体「DC NETWORK」を立ち上げて

第1回:ダブルケアとの出会い-支援団体「DC NETWORK」を立ち上げて

2023.03.22寺田 由紀子(帝京大学医療技術学部看護学科 講師)

ごあいさつ & ダブルケアとは?

 はじめまして! 今月から毎月1回連載させていただくことになりました「日本初! 医療専門職による育児と介護のダブルケアラー支援団体DC NETWORK」代表の寺田と申します。この連載は、全10回の予定で、次回から団体のメンバーが交替で執筆します。
 いきなりあいさつから始めてしまいましたが、「ん? ダブルケアラーって?」「医療専門職ってどんな人たちがいるの?」「支援団体って何するの?」などよくわからないことだらけですよね。

 そこでまず、ダブルケアから説明させていただきます。ダブルケアとは、育児と介護を同時に行う状態のことを指します。育児と介護は、両方とも「ケア」です。そのため、2つのケアが重なっていることを「ダブルケア」と呼んでいます。横浜国立大学の相馬直子先生(社会政策・福祉社会学)とブリストル大学の山下順子先生(比較社会学・社会政策学)のお二人が名付け親です1)
 ダブルケアの定義として、狭義と広義があります。狭義のダブルケアは、「育児」と「介護」の同時進行を表しています。広義のダブルケアは、家族や親族等、親密な関係のなかで行われる複数のケア関係を表しています2)。具体的には、病気や障がいのあるパートナーのケアと育児、障がいをもつきょうだいのケアと親の介護、何らかの支援が必要な子どものケアと育児など、様々なケースがあり、ダブルケアのみならず、トリプルケア、多重ケアを抱えていることもあります。ケアを担う人のことを「ケアラー」と呼び、ダブルケアを行う人は「ダブルケアラー」と呼ばれています。

 「ダブルケア」。この言葉を初めて聞いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 読者の皆様は、看護教育に携わる方が多いと思います。たとえば、小児看護学や母性看護学分野の教員や実習指導者は育児に関して、老年看護学や在宅看護学にかかわる方は介護について、学生に教授する機会は多いと思いますが、両方重なる状況については考えてみたこともない、という方もいらっしゃるかもしれません。
 このたび、看護教育職の皆様に広くダブルケアについて広めるチャンスを頂きましたので、ダブルケアラーへの支援について、読者の皆様と一緒に考えていきたいと思います。

ダブルケアに目を向けた理由

 私が「ダブルケア」という言葉を知ったのは、2018年の春でした。私は、助産を専門としておりますが、当時、妊娠中の女性に産後のサポート状況について尋ねると、両親は高齢で老老介護中であるという話を聞く機会が増えてきたような印象を抱いていました。もしかすると、この妊婦さんも出産後に両親の介護を担うことになるかもしれない、育児だけでも大変なのに、介護も重なったらどれだけ大変になるのだろうか、産後の身体を休める時間もとれないのでは…と心配になりました。
 そこで、育児と介護が重なる方を対象とした支援や研究はあるのだろうか? という疑問を抱き、みつけた言葉が「ダブルケア」でした。

性別に関係なくケア役割を担うことが課題解決につながる

 私は、2019年度から、ダブルケア支援に取り組まれていらっしゃる方々にアクセスし、積極的にかかわりを持つようになりました。支援者の方は元ダブルケアラー、現在進行形のダブルケアラーの方が多く、助産師である私を非常に歓迎してくださいました。
 支援者の集まりなどに参加し、お話をうかがうと、そこに目立つのは女性の姿でした。話の中で、パートナーである夫の話が出てくることはあまりなく、育児も介護も両方とも女性が担っている大変さを聞くことが多かったのです。

 私は、「ケアリング・マスキュリニティ3)*という、欧州でジェンダー平等推進の施策にも用いられている理論を研究テーマとしております。2018年から、ダブルケアとともにこの理論に着目しはじめたのですが、それは次のような理由からです。
 日本においては、まだまだケア役割を担うのは女性であるという性別役割分業が根強く残っています。そのため、女性が「育児や介護は私の役目だから」と全てを背負ってしまうことも多くあります。また、ケアに参画したいと考えている男性も、周囲から「男は仕事をするのが役割」という価値観を押しつけられてしまい、育児や介護を担うことを言い出せる雰囲気もなく、葛藤していることもあります。性別に関係なく、ケアを行いやすくなり、夫婦が協同しダブルケアを行えるようになれば、ダブルケアにまつわる課題の解決に結びつくのでは、と考えたのです。

*ケアリング・マスキュリニティ(Caring Masculinities):従来の男性性(男らしさ)である稼ぎ手役割に代わり、ケア役割に基づき他者と関係性をつくることや他者を思いやることなどを含めた新しい男性の在り方を示したモデル。社会学者のエリオット(Elliott K,2016)が提唱した。
 

ダブルケアラー支援団体を立ち上げたきっかけ

 2021年1月25日に、相馬先生と山下先生が執筆されたダブルケアに関する本の抄読会が開催され、私は看護職の友人を10人ほど誘って参加しました。その席で、参加されていたダブルケアラー当事者の方が、「産後、乳房トラブルで助産院へ行った時に介護の話をしたところ、『私、介護のことはわからないから』と助産師に言われた」と涙を流しながらお話しされていたことに、ショックを受けたのです4)
 助産師が、産後の、心身共に大変な状況である褥婦さんに向けて、そんな冷たい言葉を投げかけたことに、衝撃を受けました。同じ助産師として申し訳ない気持ちでいっぱいになり、助産師をはじめとし、看護職に向けて、広くダブルケアを広めなければ! という強い使命感を抱きました。そして、そのような辛い思いをされている方々のために役に立てることがあるのでは、と突き動かされるように友人たちに声をかけはじめました。
 3日ほどで20人以上の友人が賛同してくれて、メンバーがほぼ固まった2021年2月2日、DC NETWORKが誕生したのです。ちなみに2022年から「2月2日はダブルケアの日」と呼ばれているのですが、当団体の設立記念日が同じだったのもうれしい偶然です。

 実は私、当時、大学教員をしながら博士後期課程に在籍しており、翌年の修了を目指して研究の真っ最中でした。私のビジョンとしては、博士後期課程を終えてから支援団体を立ち上げるつもりだったのですが、もう、これは今、開始しなければ! と動かずにはいられませんでした。
 さらに、背中を押されたもう一つの大きな理由があります。それは、前述の相馬先生と山下先生の本に、私の名前も載せてくださっていたことです。このことは、事前に知らされておらず、とても驚き、また、感激しました。「ダブルケア」の生みの親である先生方から、非常に期待して頂いていることの表れでもあると思った私は、日本で初めての医療専門職だけのダブルケアラー支援団体を率いて、ダブルケアラー支援に尽力する決心を固めました。

ダブルケアラー支援団体 DC NETWORKを立ち上げて

 団体「DC NETWORK」を立ち上げて、2年になります。メンバーは、保健師・助産師・看護師が大半を占めますが、心理専門職や法律専門職もおります。社会福祉士、精神保健福祉士、ケアマネジャーなどの資格保持者も複数おり、自分の専門分野・つよみを生かした活動ができるようにと、10のチーム(2023年2月28日より「がんチーム」が加わり、計10チームになりました)に分かれております5)
 私たちは、DC Caféと呼ばれる主にオンライン上のダブルケアカフェで活動しております。ダブルケアカフェとは、ダブルケア当事者の方が集まり、思いを語る場です。オンラインなので、全国どこからでも参加でき、温かく優しい雰囲気で、医療職とざっくばらんに話せてありがたいと好評を博しております。メンバーは皆、豊富な経験を積んでいるだけではなく、人柄も大変素晴らしく、自慢の仲間たちです。ぜひとも、これからの連載にご期待ください。 

DC NETWORKのロゴ
「DC」は、「Double Care」「 Diversity Care」の略で、NETWORKの半円は、「DC=ダブルケア」を行っている皆様を私たちのネットワークで受けとめることを表しております。
中央の赤いWは、ダブルケアの「W」、団体設立日である「2月2日」、DC NETWORKのシンボル「Wピース」を表し、多彩なダブルケアラーの皆様を多彩なDC NETWORKメンバーで受けとめる、という意味が込められております5)。 

 

引用文献
1)寺田由紀子:東京都産業労働局 東京都家庭と仕事のポータルサイト「ダブルケアと仕事の両立を推し進めるために」2021,https://www.katei-ryouritsu.metro.tokyo.lg.jp/ikuji/columns/c9.html, アクセス日:2023年2月27日
2)ダブルケアに関する調査2018    第8弾ダブルケア実態調査(ソニー生命連携調査)
https://www.sonylife.co.jp/company/news/30/nr_180718.html
https://www.sonylife.co.jp/company/news/30/files/180718_newsletter.pdf
3)Elliott K:Caring masculinities: Theorizing an emerging concept. Men and Masculinities, 2016; 19, 240–259
4)寺田由紀子:「女性がダブルケアを担う社会的背景」,子育てと介護のダブルケア 事例からひもとく連携・支援の実際(渡邉浩文編著),p.195, 中央法規出版, 2023
5)DC NETWORKホームページ, https://dc-network.amebaownd.com/, アクセス日:2023年2月27日
参考文献
1)相馬直子・山下順子:ひとりでやらない育児・介護のダブルケア, ポプラ新書, 2020

寺田 由紀子

帝京大学医療技術学部看護学科 講師

てらだ・ゆきこ/東北大学医療技術短期大学部看護学科、同専攻科助産学特別専攻にて看護師・助産師免許を取得。東北大学大学院医学系研究科博士後期課程修了(看護学博士)。公認心理師資格も所持している。DC NETWORK以外にも、流死産を経験した方や家族のための会「ANGEL TRAIN」や、親のがんを知らされた子どもと保護者のための安全基地「KOALA CAFE®」などの支援活動に尽力。東京都助産師会板橋地区分会に所属し、災害対策担当も務める。地域で支援活動を行っているNPO法人や一般社団法人と積極的に連携し、新しい支援のカタチを探して奔走中。趣味は、音楽鑑賞とグルメレポート。人とのかかわりがパワーの源であるアラフィフ。

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