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特別編③:勇者たちのリーダーシップ ~今日も揉めながら

特別編③:勇者たちのリーダーシップ ~今日も揉めながら

2026.07.22酒井 郁子(千葉大学名誉教授/特任教授)

 実はカピバラ、骨折してしまい、手術を受けて入院中でござる(皆さんがこの原稿を読む時には退院していると思います)。時間があるし、動くのもけっこうめんどくさい。実際動くときにあれやこれやかさばって、どっこいしょという感じになるので、なるべく無駄な動きを避けカピバラ不動状態。そんなわけで、ベッド上でサブスク動画をたくさん鑑賞しています。で、「アベンジャーズ」シリーズを見始めてしまいました(全部で30作以上あるんですって!)。
 アベンジャーズはあんなに能力の高い人たちが集まっているのに、ずっと揉めています。アイアンマンは勝手なことするし、キャプテン・アメリカは譲らないし、ハルクは暴走し、ソーはそもそも超越した世界にいる。この人たちのやりとりは見ているとけっこう疲れます。でも、あれはお互いに好き嫌いという気持ちの問題で揉めているのではなくて、全員、本気で世界を守ろうとしているから揉めるのですね。そもそも揉めないチームって良いチームなのでしょうか。ということで今回は、「揉めるチーム」とリーダーシップについて考えてみたいと思います。

勇者たちはなぜ揉めるのか

 前回書いたように、勇者たちは自分のお城の中で、責任、役割、価値を教育されてきました。ですから勇者は自分のお城を背負っているといっても良いと思います。それがお城の外に出てみたら、それぞれのお城からの期待やらなんやらを背負った、いろんな勇者がいる。つまりお城の数だけ、価値やら役割があって、それらをそれぞれ勇者は背負っているというわけです。
 ということは、勇者間で異なる正義があり、そのために危険の認識やタスクの優先順位が微妙に違いますし、働き方もさまざまなら時間の感覚もさまざまでしょう。そして、もしかするとお互いにこういう違いがあるということに気づかないで、「話が合わないな」と思うということが起きているかもしれません。
 世界を救うためにモンスターを倒すという目的は共有していても、その方法とか、モンスターを倒す順番とか、そういうことで揉めるのが勇者たち。倒す順番や倒し方には、譲れない何かがあるのですね。その譲れない何かというのは、その勇者が勇者たるゆえん、すなわち勇者らしさ(professional identity)を象徴するものかもしれず、その一人ひとりの勇者の「らしさ」をつくるものが、そのお城の文化と言えるかもしれません。
 ここまで読んでいてお気づきと思いますが、専門職は専門職としての意見が明確にあるはずであり、意見が明確であるから、他の意見との対立がはっきり見えるのです。勇者が2人以上集まれば、揉めるのは当たり前ということです。

勇者にかかっているリーダーシップという祝福の呪い

 対立する意見を一つにまとめて、チームとして何を何のために行っていくのかを決定していく時には、リーダーシップが必要となります。
 ここで注意しておきたいこととして、医療系勇者はとくに、それぞれのお城でそれぞれ違うスタイルの理想の専門職像を教育されてきています。そんな理想の専門職像の中にはリーダーシップをどう発揮したら、その専門職「らしく」なるのか、ということが含まれています。「前に立つ」「責任をとる」「決める」といったいわゆる指揮官っぽさを強調されてきた職種もあれば、「支える」「つなぐ」「最後まで守る」といった姿勢こそ理想のリーダーシップだと教えられてきた職種もあります。これはお城の中ではそのお城の当たり前(常識)なのですが、ひとたびお城の外に出てみると、いろんな勇者がいろんなリーダーシップを発揮しています。中には自分だけがリーダーだと思っている勇者もいれば、自分にはリーダーシップなんてない、と思っている勇者もいるわけですけども。
 たとえばカピバラは看護職です。「患者さんの一番そばにいて気持ちに寄り添うことができる」とか「最期まで看護は提供できる」とか、看護ってすばらしいなと思える言説を聞いて育ってきたでござるよ。そして、このような看護の倫理的な特色を率先して実践したり表現して、次の世代につなごうともしてた。確かにしてました。つまり、カピバラには「率先垂範」という呪いと言いますか、リーダーシップスタイルが組み込まれている。
 同じように、医師は「陣頭指揮」というリーダーシップスタイルがしみ込んでいるかもしれません(知らんけど、たぶん)。「責任をとるのは医師」「指示を出すのは医師」という呪文が強力にしみ込んでいる(かもしれない)。薬剤師でしたら、「おかしいことは声に出して」「薬の事故を防ぐ」といった「未然防止」型のリーダーシップが身体化しているかもしれません。
 カピバラはこれらを「呪い」と表現しましたが、実は、この呪いは勇者たちへの「祝福」としてお城に伝わってきた呪文でもありました。その職種らしさを形づくる核のようなものと言ってもいいかもしれません。

桃太郎の苦悩

 IPEで「リーダーシップとは多様なものである」「どんな職種もリーダーになったり、メンバーになったりする」というマインドセットを学習する機会があれば、自分と他のメンバーのリーダーシップを相対化して考えることができます。しかし他の職種との接点がなく、多職種チームでのチームビルディングを体験できずに勇者になった場合、リーダーは職種に「固定」されるという「固定」観念から脱却できない場合も出てくるかなと思います。
 実際、これまでの日本の医療では、医師が陣頭指揮をとることが多かったと思います。医師がキックオフしないといろんな物事が進まないような仕組みになっていますし。その結果として医師の負担が大きくなり、タスクシフトという考えがここ10年にわたって取り沙汰されてきました。
 ここで話を大きく変えますけど、皆さま、桃太郎のお話をご存じですよね。日本の医療を支えてきた「チーム医療」という考え方ですが、これは医師が陣頭指揮をとり、他の医療専門職(医師以外の職種をまとめて昔は「コ・メディカル」と呼んでいたものです)は医師の指示のもとにそれぞれ分担して役割を担うというものです。このチーム医療というチームのあり方は、まさに桃太郎型チームなんです。
 だから桃太郎チームには揉め事はありません。常に勇者は桃太郎。そして目的と目標はとても明確。鬼ヶ島に行って鬼を倒して、おじいさんとおばあさんのもとに無事に帰る。犬と猿と雉はそれぞれ得意分野が違うけど、きび団子という報酬を受け取り桃太郎の命令を聞く。きび団子を与えるのは常に桃太郎、先頭に立つのもいつも桃太郎という役割の固定が強固です。そのため、メンバーである犬、猿、雉は悩まない(あるいはあまり考えない)。
 おとぎ話では、鬼ヶ島の鬼はサクッと倒されます。鬼が復活魔法を唱えて生き返ったり、回復魔法を唱えて体力が回復してしまい長期戦になったり、という展開にはなりません。また鬼ヶ島は何ヵ所にもあるわけではないです。なので、勇者・桃太郎も家来の犬、猿、雉も「めでたしめでたし」でおうちに帰るんですけど。
 現代の医療・介護では、鬼も複雑化・高度化しています。桃太郎が家来に命令して戦うだけではとても対応できません。加えて、なんなら犬も猿も雉も専門分化し高度化してます。二つ返事で何でも言うことを聞く家来という存在ではなく、それぞれが勇者となっている。桃太郎は自分一人では手に負えないモンスター、高度な知識や技術をもって自律的に判断したい犬、猿、雉の間で、苦悩が深まるばかりです。
 桃太郎型チームから、アベンジャーズ型チームにいつの間にか変質してたんですね。アベンジャーズ型チームの運営のキモは、「shared leadership」、すなわち、集団の目標達成に向けて、メンバー同士が相互に影響を与えながらリーダーシップ機能を共有する動的なプロセスです。だから現代の桃太郎チームでは、犬、猿、雉のうち、その状況において最も適切な判断を下せる者に主導権(リーダーシップ)を渡すことが求められます。そうすることで、複雑化・高度化した鬼を倒せる確率は高まりますし、桃太郎自身の疲労感も、孤独感も、苦悩も減る(かもしれない)のかなと思います。

それでも勇者たちは、今日も揉めている

 shared leadership で大切なことは、「全員がリーダーになること」ではありません。「必要な時に主導権を渡すことができること」です。つまり、自分の価値観とか好き嫌いとかで判断するのではなく、勇者として今、目の前にいるモンスター(鬼)に一番詳しい仲間に主導権を預けることができるかどうか、そしてそれまでのリーダーという役割を手放してメンバーになれるかどうかということです。
 こうしてリーダーシップの受け渡しができるようになるとアベンジャーズ型チームになるんですけど、だからアベンジャーズ型チームは忙しいんですね。誰が決めるのか、どこまで譲るのか、いつまでリーダーをするのか、都度つど調整が必要になるからです。
 そして、リーダーシップの受け渡しでどんなに揉めて(意見を交わして)、幾多のモンスター(鬼)を共に倒したとしても、完全に理解し合うことはたぶんありません。もっと言うなら、どんなにわかり合っていると思っていても、新たなモンスターに出会うたびにチームメンバーの戦い方を見て、「え、そうだったんだ‼」「あ、そういうことなんだ」「今までわかっていなかったんだな」と認識を新たにすることが多くあるかもしれません。だって、戦いをとおしてチームメンバーはそれぞれ成長し、新たな技を獲得し続けるわけですから。昨日できなかったことが今日できるようになっている。専門職勇者たちはそうやって日々変化し続けています。
 どんなにわかり合っているつもりでも発見がある、なんてすてきなんでしょう。多職種で協働するということは、お互いの価値観を完全に理解したり、一致させたりすることではなく、違う価値観をもったまま、「違うんだな」と思いながら、目的と目標をできるだけすり合わせつつ働くことなんでしょうね。

魔王がいなければ、こんなにおもしろい旅はできなかったよね 

 カピバラ、自分の巣がある大学院で、災害時専門職連携演習という授業を担当していました。発災時の自治体災害対策本部や、復興期の模擬住民会議を再現したシミュレーション演習です。リアル警察、消防、自衛隊のOBの方々、自治体の方々にもご協力いただき、カピバラは毎年コントローラー役をしておりました。
 シミュレーションとはいえ、皆さん本気です。全員が住民を守るという同じ目的に向かっているはずなのに、こっちがびっくりするほど揉めるんです。ところが、演習後半の人命救助フェイズに入ると空気が変わります。地図を囲みながら、皆さん次々に意見を出していき、どんどん方針がまとまっていくのでした。それにつられて大学院生さんたちも声を出していくようになる。そして演習が終わると、今度はみんなで仲良くランチを食べている。でも、次の演習になると、やっぱりまた揉める。次の年も揉める。
 正直言うと、アベンジャーズ型チームはとても面倒です。それぞれに自組織を背負っているし、話はなかなかまとまりません。もう自分一人で決めたほうが早いと思うこともありますし、桃太郎型チームのほうがずっと効率的に見える時もあります。
 でも、魔王とその手下はあまりにも強大で、ちょっと油断するとすぐにやられてしまう。頼りになる仲間ほど、自分とは違うお城で育った勇者だったりします。そして、誰かが命令すれば皆が無条件に従う、なんてことは、強いチームであればあるほど、ないわけです。
 魔王が出現しなければ、きっと自分の城の中だけで一生を終えていたのかもしれません。だけど魔王が現われたからこそ、こんなに面倒で、こんなに揉めて、こんなに発見に満ちた旅になったのです。大変だけど。

 

 

酒井 郁子

千葉大学名誉教授/特任教授

さかい・いくこ/千葉大学看護学部卒業後、千葉県千葉リハビリテーションセンター看護師、千葉県立衛生短期大学助手を経て、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。川崎市立看護短期大学助教授から、2000年 千葉大学大学院看護学研究科助教授、2007年 同独立専攻看護システム管理学教授、2021年 同高度実践看護学・特定看護学プログラム教授を経て 、現在に至る。この間、2015年1月1日から2025年3月31日まで専門職連携教育研究センター センター長を務めた。2026年4月より現職。著書は『看護学テキストNiCEリハビリテーション看護』[編集]など多数。趣味は、読書、韓流、ジェフ千葉の応援、料理。

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