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第32回:口腔がんと前癌病変

第32回:口腔がんと前癌病変

2026.03.19島谷 浩幸(医療法人恵泉会堺平成病院歯科 科長)

口の中の腫瘍(がん)とは?

 口の中にも他の臓器・組織と同様に腫瘍ができることがあります。
 舌癌はよく知られるところですが、口腔内のその他の部位の粘膜(歯肉、頬粘膜、口蓋粘膜など)を中心に、良性あるいは悪性の腫瘍が発生します。
 その頻度として2002年に日本頭頸部癌学会が公表した集計では、舌が最も多く約6割を占めますが、次いで歯肉(上下合わせて約17.5%)、口底(約9.6%)、頬粘膜(約7.1%)などと続きます(図1)1)

図1 口腔がんの部位別頻度
[Japan Society for Head and Neck Cancer Registry Committee:. Report of head and neck cancer registry of Japan. Clinical statictics of registered patients,2002. Japanese Journal of Head and Neck Cancer 32, 15-34, 2006を参考に作成]

 

 好発年齢は60歳を超える高齢者であることから、加齢による免疫機能の低下などががん発生の誘因であることを示唆しています。
 がん発生の危険因子としては、喫煙や飲酒による化学的な慢性的刺激に加えて、虫歯で形態が不整な歯、合わない詰め物、極端に傾斜した歯などによる機械的な慢性的刺激が考えられるほか、口の中の不衛生な状態などもが挙げられます。

 図2は当院の患者症例で、他病院で口腔がんの手術を受けて治癒した後、当院へリハビリテーション目的で入院されたケースです。口蓋部の悪性腫瘍を切除したことで、口蓋部の穴の上部が鼻腔と交通しています。このことを考慮しながら、保湿剤等が鼻腔へ流入しないよう、安全かつ効率的な口腔ケアを継続的に実施しました。
 口の中の腫瘍は、治ってからも食べる、話すなどの日常生活に基本的なQOLに直接、悪影響を及ぼします。口の中の異常を早期に発見して速やかに対応することで、手術などの侵襲を最小限にとどめることが大切です。

図2 口腔内腫瘍(悪性腫瘍・切除後)
[写真:筆者(yururisya)]

 

口腔前癌病変とは?

 前癌病変は、将来的に癌化する可能性が高いとされる病変のことで、口腔内では白板症がよく知られています。
 白板症は口腔粘膜の中でも、特に頬粘膜や舌、歯肉に認められる白色病変で、擦っても剥離できないものを言います(図3)。
 また、類似疾患である、赤色を呈する紅板症や、レース状の白色病変である扁平苔癬などの粘膜病変も、前癌病変として挙げられています。

図3 前癌病変(白板症)
[写真:筆者(yururisya)]

 

◎エビデンス①

 2013年に徳島大学口腔内科学のグループが報告した研究では、1988年から2002年までの15年間に徳島大学病院歯科口腔外科を受診して口腔白板症と診断された症例に対し、その部位別頻度や悪性度、生検を実施後の病理組織的な詳細などを調べました2)
 患者年齢は24~88歳(平均年齢60.2歳)で、男性56名、女性57名の合計113名が対象になりました。
 調査の結果、口腔白板症の部位は多い順に歯肉43例、舌41例、頬粘膜19例などとなりましたが、そのうち悪性化例の割合をみると、舌が約22.0%と最も高くなりました(図4)。
 また、細胞のがん化への指標となる上皮異形成の変化では「核小体の増大」「棘細胞層における単一細胞または細胞群の角化」の2項目が悪性化例に多くなりました。
 このように口腔内の白くてぬぐえない粘膜病変があれば、速やかに医師や歯科医師に伝えるようにしましょう。

図4 部位と悪性化の関係
[桃田幸弘,細川浩良,高野栄之ほか:口腔白板症の臨床病理学的検討:悪性化に関する臨床病理学的指標について.日本口腔検査学会雑誌 5(1),28,2013より引用]

 

口腔がんは認知度が重要

 初期の口腔がんは口内炎のような痛みなどの小さな異常から見つかることが多いですが、「単なる口内炎だから大丈夫だろう」と過信して、長引いても放置している人は少なくないのではないでしょうか。

◎エビデンス②

 2025年に名古屋市立大学のグループが報告した研究では、著名人のがん公表と口腔がん診断数の推移との関連について、全国がん登録を用いて統計的な分析を行っています3)
 その結果、2019年1月の全国の口腔がん診断数が784件であったのに対し、2019年3月には1,195件となり、ある著名人が2月に口腔がんを公表した後に診断数が約1.5倍に急増したことが明らかになりました。
 この研究ではさらに、性別、年齢、詳細な部位、がんの進展度などについて詳細な分析を行ったところ、「男性、70歳代、舌および口腔底、がんの進展度が限局の場合」という条件において、同様の急増が認められました。
 この結果は著名人ががんを公表したというメディア報道により、多くの一般住民のがんに対する認知度を高め、医療機関の受診につながったことを示唆しています。また、診断する医師・歯科医師側が通常より詳細な検査を行った可能性も合わせて提示されています。
 日々、患者の看護をする中で、口の中の異常を見つける機会があると思いますが、患者から自発的に口腔内の異常を訴えるように勧めることも大切です。

* * *

 Mさん(70歳代、女性)は、「1カ月ほど治らない口内炎があって痛みが続いている」という主訴で、当院歯科を受診されました。
 口の中を見ると、下唇の粘膜に直径5mmほどの白い病変がありましたが、通常の口内炎のように丸くなく、境界が不明瞭で粘膜表面がただれていました。
 口内炎であれば、ステロイド軟膏を塗布するなどして経過観察をしますが、患者に聞くと、すでに軟膏を塗り続けていたが効果がなかった、とのことで、口内炎ではない別の疾患が疑われました。
 そこで、近隣の大学附属病院にある口腔外科に精査及び治療の依頼をしました。後日、返書があり、「病理組織検査にて口唇がんと診断されたため、当院にて加療致します」との内容でした。
 症状が長引いている口腔粘膜の異常は、速やかに専門の医師に受診を勧めることを改めて実感した体験でした。
 

[引用文献]
1)Japan Society for Head and Neck Cancer Registry Committee:Report of head and neck cancer registry of Japan. Clinical statictics of registered patients,2002. Japanese Journal of Head and Neck Cancer 32, 15-34, 2006
2)桃田幸弘,細川浩良,高野栄之ほか:口腔白板症の臨床病理学的検討:悪性化に関する臨床病理学的指標について.日本口腔検査学会雑誌 5(1),26-30,2013
3)Shihoko Koyama, Takahiro Tabuchi, Kayo Nakata, et al.:Effects of Public Disclosure of a Japanese Celebrity’s OralCancer: Trends in Oral Cancer Diagnoses. Oral disease 31(10):2878-2884, 2025

島谷 浩幸

医療法人恵泉会堺平成病院歯科 科長

しまたに・ひろゆき/大阪歯科大学卒業、同大学大学院博士課程修了。大阪大学微生物病研究所、京都文化医療専門学校非常勤講師等を経て、2019年より現職。歯科医師・歯学博士、野菜ソムリエ。TV番組『所さんの目がテン!』(日本テレビ)出演等のほか、著書に『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス、2008)、『ミュータンス・ミュータント』(幻冬舎ルネッサンス、2017/文庫改訂版2021)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版、2019)がある。雑誌掲載・連載多数。趣味は自然と触れ合うことと小説執筆、好きな言葉は晴耕雨読。ブログ「由流里舎(ゆるりしゃ)農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。

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