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第2回:「発達障害」への支援の基本的な考え方

第2回:「発達障害」への支援の基本的な考え方

2024.05.30北川 明(順天堂大学保健看護学部 教授)

はじめに:発達障害の概要

 この回からは、発達障害を有する学生への支援について解説していきます。その前に、発達障害とはどのようなものか、改めて確認してみましょう。
 「発達障害」という用語は、1963年、アメリカ合衆国の法律用語として誕生しました。当時は「精神薄弱者」と呼ばれていた知的障害者への包括的な支援を目指して作られた法案のなかに、「Developmental Disabilities」という用語が初めて登場します。この用語が使われだしてから、60年程度しか経っておらず、まだまだ新しい概念であると言えるでしょう。

 わが国では、2005年4月に発達障害者支援法が施行され、発達障害への理解の促進が進められてきました。発達障害者支援法は、これまで制度の谷間におかれていて、必要な支援が届きにくい状態となっていた「発達障害」を定義し、必要な支援を届かせることを目的とした法律です。この法律の中で、発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています1)
 ここから分かるように発達障害は、1つの障害を表すのではなく、複数の障害をまとめたものです。そして、幼いころに発現する脳機能障害であり、育て方や親の愛情不足が原因ではありません。その発現には、遺伝要因が強くかかわっているといわれています2)。発達障害に関する研究は近年活発に行われていますが、現在においても、その原因ははっきりしていません。

 定義から分かるように、発達障害には複数の障害が含まれているのですが、その障害には重複や合併が多く、それらの境界は明瞭ではありません。多くの書籍やホームページでは、各障害の典型例を想定して記述されています。しかし、実際には複数の障害の合併や、対人、言語、運動、注意、認知などの症状の重複は多く3)4)、典型例は大多数ではありません。
 図1は、厚生労働省が発達障害の理解のためにホームページに掲載しているものです5)。この図を見ても、自閉症や注意欠陥多動性障害、学習障害、さらには知的能力障害の重なりがあるように描かれています。なお、発達障害者支援法や図1で使用されている障害名は、世界保健機関の分類体系である「疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD10)」の名称が使われており、現在精神科領域で広く使用されている、アメリカ精神医学会が作成する精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5)の名称とは一部異なっています。

図 1 それぞれの発達障害の特性 
[厚生労働省:政策レポート.発達障害の理解のために,〔https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html〕(最終確認:2024年5月21日)より引用]

 発達障害を定義づけるさまざまな症状は、人によって症状が「ある」「ない」かの違いがあるだけでなく、その強さも変わってきます。たとえば、注意欠陥多動性障害 (Attention-Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)の症状の中には、落ち着きがなくじっと座っていられない多動性というものがありますが、30分も座っていられない人もいれば、手遊びはしていても長時間座っていられる人もいますし、座っていてもとにかくおしゃべりが止まらない人もいます。その症状の現れ方は人それぞれなのです。発達障害の症状が色濃く、強く出ていれば、早期に気づかれることも多く、反対に特徴が薄ければ、成長し就職するまで見逃されることがあります。こうした症状の重なりと濃淡が、発達障害の学生への対応を難しくしている要因です。

発達障害学生を支援するための基本的な考え方

 発達障害はいずれも脳の機能障害であり、治療により「治る」というものではありません。その障害特性は、さまざまな訓練や適応により見えにくくなったとしても、完全になくなりはしません。そのため、発達障害のある人に対して「ミスをなくしてくれ」「遅刻をしないように」と注意し、本人の努力を促したとしても、改善できないことのほうが多いのです。何度も何度も注意され、「できていない」と繰り返し言われ続けるうちに、「なぜ自分はこんなことができないのか」と自己肯定感が下がり、二次障害として気分障害などが発症してしまうことも少なくありません。さらには、周囲の人間にいじめられているなどの被害的感覚をもち、通常の助言すら受け入れる余地がなくなってしまうこともあります。
 前述のように発達障害は複数の障害が重複することも多く、その特性の強さも人それぞれ違うものです。そのため、発達障害だからこのように支援すれば良いというような画一的なものはありません。まずは、支援する対象をアセスメントしていく必要があります。アセスメントから学生の障害特性を理解し、学生の困っていることを把握することが大切です。そして、支援においては、教育や指導で本人の行動を変えさせようとするのではなく、さまざまなツールを使い、環境調整をし、周囲の人からの協力のもと、障害特性による困難をカバーする方法を見出すことになります。その際、その手段については支援する側が押し付けるのではなく、当事者と共に考えるということが大切です。

 また、支援は学校組織全体でチームとして行う方が良いでしょう。特定の誰かに支援の責任を負わせることは、支援者の疲弊につながっていくことが多いためです。また、教員個人の判断によって支援内容が変わることも望ましくありません。教員だけでなく、教務課の職員や、保健室の担当者、家族など、学生にかかわる人たちがチームとなって、それぞれの支援の中で知りえた情報や知識を共有していくことで、学生により適した支援ができるようになっていきます。
 このような支援組織を作るにあたり、まずは「合理的配慮申請書」を用意すると良いでしょう。合理的配慮申請書とは、学生が「どのような合理的配慮をして欲しいか」を記載して、学校に提出する書類になります。申請書の作成は教員や学生支援コーディネーターが学生と一緒に行い、そして提出された申請書をもとに関係者で話し合い、学校全体としてどう対応していくか検討し、学生に回答を返すという流れになります。このような流れを作ることから始めてみると良いのではないかと思います。

  学生支援コーディネーターは、特別な支援を必要とする学生に対し、相談・助言を行うほか、学生の支援が円滑に行われるよう、授業保障や配慮に関する担当教員との調整、支援環境整備に関する担当部署との調整など、学内外の調整を行います。

 さらに、私が重要と考える支援としては、発達障害のある当事者自身に、自らの特性を自覚してもらい、困難なことに対しては助けを求められるようにすることです。発達障害の特性は、一目でわかるものではなく、何をどこまで支援すれば良いか判断することは非常に難しいです。そのため、本人自らが声を上げていくことが、支援を円滑に行う上で不可欠であると考えます。自らの特性を知り、できないことに助けを求めることは、発達障害の有無とは関係なく、社会人としても重要なスキルであると思います。さまざまな教育の場において、学生に助けの求め方を教えていくことが必要であると考えます。

【引用文献】
1.    総務省行政管理局:発達障害者支援法,〔https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC1000000167〕(最終確認:2024年5月1日)
2.    Sandin S, Lichtenstein P, Kuja-Halkola R, et al: The familial risk of autism. Journal of American Medical Association 311(17):1770-1777, 2014
3.    C Gillberg: Deficits in attention, motor control, and perception: a brief review. Archives of disease in childhood. 88(10): 904-910, 2003
4.    Dorothy VM, Norbury CF: Exploring the borderlands of autistic disorder and specific language impairment: a study using standardised diagnostic instruments. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 43(7): 917-929, 2002
5.    厚生労働省:政策レポート.発達障害の理解のために,〔https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html〕(最終確認:2024年5月1日)

北川 明

順天堂大学保健看護学部 教授

大阪大学医学部保健学科卒業後、5年間の看護師経験を経て、県立広島大学保健福祉学部に助手として着任。その後、広島大学医学部保健学科、福岡県立大学看護学部などを経て2021年より現職。全国で発達障害のある看護師、看護学生支援についての講演を行っている。趣味はビリヤード。

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