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第3回:ADHD(注意欠如多動症)を有する学生への対応

第3回:ADHD(注意欠如多動症)を有する学生への対応

2024.07.03北川 明(順天堂大学保健看護学部 教授)

ADHDの概要

 では、ここからは、発達障害の中でも人数が多い代表的な障害について、複数回にわたって個別に解説していきたいと思います。今回はADHDを取り上げます。
 ADHDの特徴は、集中力が続かず注意力が散漫な「不注意」と、落ち着きがなく行動をコントロールできない「多動性」、衝動を止めることができない「衝動性」です。

不注意

 まずは、「不注意」の特性についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。不注意の特性があると、注意や集中を継続することが難しいので、さまざまな問題が起きます。よく起こることとして、さまざまな作業においてミスが増えてしまいます。また、長く時間がかかるようなことがあると、他のことを考え始めてしまったり、途中で寝てしまったりすることもあります。1対1で話をしている最中にも、相手の話を集中して聴いていられないということがあります。他にも、一つのことをずっと記憶に留めておくことが苦手なために、約束を忘れてしまったり、遅刻をしたり、物をなくしてしまったり、何をやるべきなのかわからなくなってしまって、順序立てて課題が行えなかったりもします。
 その半面、このような不注意症状があっても自分が興味をもった特定の事柄に対しては、寝食を忘れるくらいに集中することがあります。これを「過集中」といいます。過集中の状態では、集中力が高くなっており、高い能力を発揮することが多々あります。しかし、過ぎた集中という言葉の通り、寝食を忘れて日常生活に支障をきたすことや、集中が切れた後に虚脱状態になってしまうこと、特定のものへの依存性が高まりやすいことなどが問題として言われています。
 ADHDの不注意とは、単純に集中が続かない障害というよりも、集中のコントロールの障害といえるのかもしれません。この不注意の特性は、看護師をする上で、非常に不利に働きます。看護師の業務は、薬剤の投与など患者の命に係わることが多くあります。不注意の特性があると、輸液準備におけるミスや投与忘れなどが起こりやすくなってしまいます。

多動性

 次に「多動性」とは、その名の通り、じっとしていられずに落ち着きなく動くことを意味しています。子どもの頃であれば、授業中にもかかわらず座っていられずに席を立ったり、手遊びや隣の席の子とのおしゃべりを辞められなかったりなどの行動が該当します。成人になると、多動性はコントロールできるようになり目立たなくなります。しかし、コントロールできたとしても、じっとしていることに対する苦手意識はありますので、会議などじっとしていなければならない状況を嫌います。そのため、自ら動き回らねばならない多忙な仕事を選んだり、授業などでは貧乏揺すりをしたりして対処するようになります。

衝動性

 「衝動性」は、先のことを考えず自分に害があるかもしれなくても性急に行動することを指します。車が来るのを確認せずに道に飛び出したり、思い通りにならないとイライラして大声を出したりすることもあります。この衝動性も成長するにしたがい若干おさまっていきます。小児期では感情を爆発させ暴力的であったものが、成人期では爆発することまではなくイライラする程度で抑えられるようになります。しかし、完全に衝動性がなくなるというわけではなく、運転中に無茶な追い越しをしたり、過度の飲酒を繰り返したり、授業を衝動的にさぼったりなどの行動がみられることもあります。

ADHDの診断と治療について

 ADHDは、ICD-10では「注意欠陥多動性障害」と表記されますが、“欠陥”というネガティブな意味合いのある語感を嫌って、DSM-5では「注意欠如多動症」という訳語となりました。障害の現れ方はさまざまで、注意力の欠如が目立つ不注意優勢型、多動性や衝動性が強い多動性-衝動性優勢型、すべての特性が出ている混合型があります。また、年代によって症状の現れ方が変わっていき、ADHDはさまざまな併存症が報告されていますが、睡眠障害も合併しやすいと言われています1)
 不注意の問題は、ADHDの特性によるものだけではなく、睡眠障害によって引き起こされることもあります。眠気が強ければ、誰であっても不注意になったり、集中を継続するのが困難になったりするでしょう。不注意症状があるときには、それはADHDの特性によるものか、睡眠障害によるものか、どちらの要因も関係があるのかは、よく見極めなければなりません。ADHDがあると、講義の遅刻や課題の提出遅れなど、やる気がないように見える問題がよくおこります。

 ADHDの症状の改善には薬物療法が非常に効果的なことが、アメリカの大規模調査によっても明らかになっています2)。その有効率は、70~80%とも言われており、不注意、多動性-衝動性の改善が認められます。しかし、ADHDの症状は、薬を飲んでも完全になくすことはできません。ADHDの症状を自覚してそれを克服する手段を自ら身に付けていくことが、治療の最終的な目標です。薬を含めたADHD治療は、今ある症状をやわらげ日常生活を送りやすくするために実施されます。

ADHDを有する学生への対応

 では、実際の事例からADHDを有する学生への対応と合理的配慮について考えてみましょう。

不注意で、計画的に事前準備をすることが苦手なAさん

 2週間後から開始される精神看護実習にむけて、普段から不注意で忘れ物の多いAさんを含む5名の学生に対し、オリエンテーションを行いました。教員は、実習要項の記載が一部変更になり、実習初日の集合時間が変更となることを説明し、メモしておくように指示しました。
 Aさんを除く4名は、変更内容を実習要項にメモしていますが、Aさんは実習要項を持参していないのか、ルーズリーフにメモをしています。そして、Aさんはメモも常に書いている様子ではなく、教員の説明が止まった時、時々思いついたように何かを書いています。教員がAさんに実習初日の集合時間について尋ねると、「大丈夫です。書きました」と言いながらルーズリーフを裏返したりしています。
教員はAさんに、もう一度ゆっくりと変更内容として初日集合時間と初日の持参物を説明し、わからないところは無いかを最後に確認した後にオリエンテーションを終了しました。
 このようにていねいに説明したにも関わらず、Aさんは実習初日、集合時間を間違い、持参するように言っていた事前学習ノートを忘れてしまいました。


教員:今日はどうして遅刻したのですか。事前学習ノートも忘れているみたいですが。
Aさん:今朝実習要項を見たら、実習初日の集合時間が実習要項に書いてなくて、慌ててグループメンバーに聞いたら8時だって言われて、急いで来ました。慌てていたので、事前学習ノートは忘れてしまいました。
教員:2週間前の実習オリエンテーションで、2回説明しましたが聞いていましたか?
Aさん:えっ、そんなこと言われていましたか?実習要項には何も書いてなくて…。
教員:確か、Aさんはルーズリーフにメモをしていましたよ。
Aさん:あれ、そうでした?ルーズリーフが見当たらないです。すみません…。

 Aさんは、オリエンテーションで説明した内容だけでなく、メモしたことも忘れていました。また、実習当日になってから実習要項を確認するなど、計画的に事前準備ができていませんでした。このような学生はいい加減で不真面目な学生と誤解を受けやすく、教員の目が厳しくなってしまうことも少なくありません。
 今回、教員は、Aさんに対して繰り返し説明し、疑問を確認するなど配慮を行っていたように見えますが、説明が分かれば良いという視点で考えており、Aさんの忘れやすい、計画的行動が苦手という特性を考慮できていませんでした。支援を行うのであれば、学生の特性をアセスメントし、その特性に対しての補助的手段を考えていかねばなりません。
 この例であれば、忘れやすいという特性に対しては、「ルーズリーフへのメモを学生のスマートフォンのカレンダーに入力させて、アラームをセットするよう指示する」というように、便利なツールを使うのが良いでしょう。合理的配慮として、教員が前日に連絡メールを送ったり、学生の家族と情報を共有したりして家族から連絡を入れてもらう方法もあるでしょう。このように、学生自身の力だけで特性を克服させようとするのではなく、特性があったとしても問題が生じないような工夫や環境調整をしていくことが支援の基本となります。

ADHDの学生が実習で直面する困難

 ADHDの学生に実習中によくみられる困難としては、やはり不注意の問題が多く見られます。カンファレンスの集合時間を忘れたり、ナースシューズを忘れたりしてくるなど、説明していても抜け落ちてしまうということが起こりやすいです。教員や実習指導者の指示も忘れてしまうため、グループメンバーに迷惑をかけてしまうことも少なくありません。他にも計画的にものごとを進めることが苦手であるため、患者と話し込んでしまい予定していた看護計画を終わらせられないことや、実習記録を期日までに提出できないこともよくみられます。さらに、衝動性から、後先考えず思いついたことを言ってしまい相手の気分を害してしまうことや、やらねばならないことが複数あると焦燥感で混乱してしまうこともあります。
 我々看護師にとって、予定を忘れてしまうことや、忘れ物、失くし物が多いというのは大きな問題になります。患者のケアを忘れてしまったり、ケアに必要な物品を忘れてしまったりしては、患者の命に関わることもあります。失くし物についても、看護師は患者の情報を扱っており、それは個人情報として機密性が高いものです。そのため、このような忘れることやミスの多いADHDのある学生に対しては、非常に厳しい目が向けられてしまいます。
 ADHDを有する学生に対する支援としては、上の事例で述べたように、本人の努力を促すよりも、環境調整や便利な道具の使用を考えることが必要になります。また、実習においての不注意は患者への不利益に繋がりますので、学生の特徴を実習指導者と情報共有しておく必要があるでしょう。そして、チェックリストやメモ帳の使用を習慣づけるように、それをただ指示するだけでなく、一緒にチェックリストを作成するなどの支援も行うと良いでしょう。また、このようなミスの多い学生は、自尊心が低下していることも少なくありません。失敗を責めるのではなく、どうすれば失敗を防げるか、具体的な方法を一緒に考えていく姿勢をもつことが大切です。

【引用文献】
1)Susan SF Gau,  Kessler RC, Tseng WL, et al:  Association between sleep problems and symptoms of attention-deficit/hyperactivity disorder in young adults. Sleep 30(2): 195-201, 2007
2)Jensen PS, Arnold LE, Richters JE,et al: Moderators and mediators of treatment response for children with attention-deficit/hyperactivity disorder. Archives of General Psychiatry 56: 1088-1096, 1999

北川 明

順天堂大学保健看護学部 教授

大阪大学医学部保健学科卒業後、5年間の看護師経験を経て、県立広島大学保健福祉学部に助手として着任。その後、広島大学医学部保健学科、福岡県立大学看護学部などを経て2021年より現職。全国で発達障害のある看護師、看護学生支援についての講演を行っている。趣味はビリヤード。

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