『看護学テキストNiCE 新版 看護管理学』(南江堂)の刊行を記念し、編集を担われた奥 裕美先生(聖路加国際大学大学院看護学研究科 教授)、執筆者の小玉 淑巨先生(北里大学看護学部 准教授)、佐々木 菜名代先生(浜松医科大学医学部附属病院 副病院長/看護部長)に、看護管理を教える上で大切にしていること、またどのような思いを込めて編集・執筆されたかについて語っていただきました。
※本座談会は 2026 年 1 月に行ったものです。
(NurSHARE編集部)
身の周りから始める「リーダーシップ」
奥:本書『NiCE新版 看護管理学』は、基礎教育における「看護管理学」の教科書として編集していますが、一口に「看護管理学」といっても、学校によって講義形態は多様ではないかと思います。本学では1年次に「キャリア・デザイン」、2年次に「看護リーダーシップ」、4年次に「看護管理学」と「看護政策論」という講義を配置しています。2年次の「看護リーダーシップ」では、まだ実習が本格化していない時期に、病院で働くことを想像しながら、リーダーシップの諸理論のほか、セルフマネジメントやチームワーク、問題解決について学びます。
小玉:本学では「看護マネジメント論」という講義名で、4年次の前期に集中的に行っています。領域別実習が終わって統合実習がこれからという時期なので、統合実習に向けて医療安全や看護倫理をもう一度整理しつつ、領域別実習で体験した出来事の意味づけをサポートしたり、そこから組織の一員としての課題を見出すことを目指しています。学生の頭の中に、実習での体験がまだ残っているタイミングなので、組織の中で見聞きしたことを解像度高く捉え直す、という狙いがあります。授業の柱としては、組織倫理、リーダーシップ、組織図の見方に加えて、働く環境、離職の問題など「働く上での心身の健康」も含めています。また、3年次には、キャリアデザインに特化した「看護キャリア開発論」という講義も設けています。
奥:講義の中で私が特に大事にしているのは、職位や明文化された権限をもつ人だけが行うのではない「リーダーシップ」のあり方です。例えば日々の生活の中で「おかしいな」と感じたことを放っておかないこと、「誰かがやってくれるだろう」と思わないこと。そこにゴミが落ちていたら拾うことから始まって、困ったなと思ったことをあきらめずにどうにか改善する。そういった心の持ち方や、行動することの必要性を学ぶことをメインにしています。
小玉:リーダーシップを自分に引き寄せて考えてもらうということですよね。本学の「看護キャリア開発論」の中では、専門看護師、特定行為研修修了者、研究者、海外留学経験者など多様なキャリアを有する看護職を講師として招いています。講義の中では、体調の良し悪しや病気も含めて自分をコントロールしながら働き続けた経験など、その方のライフストーリーにも触れてもらうようにしています。すると、その方々が発揮されてきた多様なキャリア選択やリーダーシップが垣間見える。学生には、キャリアを積み重ねていく上で、リーダーシップは誰もが発揮する機会があるものだと伝えたいと思っています。
佐々木: 私は大学の附属病院の看護部長という立場から、看護管理の講義の中で「大学病院における看護管理」というテーマで1コマを担当しています。一番伝えたいのは、新人でも学生でも「看護管理は他人事ではない」ということ。フォロワーがリーダーをつくるのだということを強調しています。新人だから関係ないのではなく、看護師長が何をしているのか、どういう視点で病棟を見ているのかに気づいてもらいたい。
臨床に出ると、経験の少ないスタッフほど「忙しい時に手伝ってくれる看護師長が良い師長」という見方になりやすいのですが、看護師長は見えないところで病棟が安全に機能するよう、判断と調整を重ねていますよね。「マネジメントは、うまくいっている時ほど目に見えない」ということです。
そこに気づけると臨床の理解が変わりますし、自分が組織の一員として何を担っているのかも見えやすくなります。日々の業務が滞りなく回っていると、そこにどんな判断や調整があったのかは意識されにくい。でも実際には、管理者は人的配置や安全、物品や設備、他職種との調整など、目に見えにくいところで常に調整役を担っています。臨床では、管理者や組織体制が変わったりした時に初めて「支えられていたんだ」と気づくこともあります。学生のうちから、管理者の仕事を「評価できる目」、つまり見えない仕事に気づき、能動的に動ける視点を持ってほしいです。
奥:「私は関係ない」ではなく、「私はこの組織の一員として何ができるか」という視点ですね。その出発点であり専門職として働く上で大前提となるのが、リーダーシップであり、そこから周囲を巻き込む力へと広がっていく、ということだと思います。
本書はまさにそのような考えから着想し、リーダーシップを入口に据えたうえで、看護を提供する仕組みづくり→組織形成→人材配置・育成→組織の効果的な運用、までを自然な流れで理解できる目次立てを目指しました。
事例が生む、看護管理のリアリティ
奥:さらに本書のもう一つの柱が、豊富な事例です。学生に看護管理を身近に感じてもらい、臨床での管理者としての経験がない教員でも教えやすいように、という思いがありました。事例があれば、リアリティをもって説明しやすいですし、学生が一人で読んでも「こんなことが起きるんだ」と興味を持てるのではないかと。
小玉:私が担当する講義では、以前から事例を活用していました。テーマによっては、自分の臨床経験も踏まえて、事例をつくることができます。しかし専門性の高い事例、例えば電子カルテのサーバーにウイルスが侵入する話(Ⅶ章3節 事例タイトル「サイバー攻撃」)などは、自作はできません。各分野の専門家や臨床の第一線にいらっしゃる方が執筆されたリアリティのある事例は、本書の特長の一つだと思います。授業を行う身としては、とてもありがたいです。
佐々木:私も、あくまで創作事例ではありますが、看護部長として実際に経験した内容をベースに執筆しました。新卒採用の戦略や就職説明会、スタッフの勤務体制の変更、職場におけるOJTといった事例(Ⅴ章1-3節 事例タイトル「看護部長が向き合う人材配置・育成」)は、管理者の経験を有する方がご覧になったら「あるある」と思っていただけるのではないでしょうか。
奥:各事例のメインのテーマの背景には、臨床に存在する課題への問いかけも忍んでいます。例えば小玉先生に執筆していただいた時間外労働の事例(Ⅳ章1-2節 事例タイトル「ある急性期病院における時間外労働削減の取り組み」)は、管理者としての時間外労働削減への責務だけでなく、そもそもなぜ削減する必要があるか、という本質も伝えています。
小玉: 時間外労働削減の目的は誤解されやすい側面がありますね。経営上のコストカットという目的が強調されがちですが、本来は看護師が健康に働き、良いケアをするためです。看護師が過重労働により健康を損なえば、ケアの質が悪化し、結果として患者さんにも影響します。そういう面を事例で説明できればと思いました。
奥: 初めのほうに出てくる、リーダーシップとマネジメントとは何かを伝える事例(Ⅰ章1-2節 事例タイトル「患者と看護師のための腰痛防止プロジェクト」)も同様です。「若手の看護師が自身の腰痛について気になり、患者に合った方法で適切に用具を使うことで、腰痛防止にも患者のADL向上にもつながることを知る。そして病棟で腰痛防止プロジェクトを立ち上げて……」というストーリーです。ひとつの事例の中で、リーダーシップは管理者だけのものではなく、身の周りの困り事から始まるということ、次にそれを解決しようとすることが周りの人のためにもなるということ、そしてケアの質向上にもつながるということ、様々な要素を伝えられるのではないでしょうか。
佐々木:私は、身体拘束に関する事例(Ⅱ章1節 事例タイトル「高齢患者の不穏状態に対する身体拘束」)が印象に残りました。やむなく上肢の拘束を行う入職2年目の看護師が、患者さんから「殺される!」と訴えられるという、おそらく学生さんからするとかなりインパクトがある内容です。事例の後の解説でも、「看護師の倫理綱領」や「看護業務基準」を絡めながら「どうすればよかったか、そして今後どうするべきか」という視点を示しています。まさに自分が管理者として臨床にいたら、そうスタッフに伝えたいなという内容で、リアリティがあります。
看護管理学は「つなぐ学問」——専門性を臨床で機能させる視点
奥:最後に、看護管理学の講義を担当される先生方へのメッセージをまとめます。本書は、看護管理学がご専門でない方、臨床での管理者経験がない方もお使いになることを前提につくりました。事例から解説へという本書の構成をもとに、理論を軸にするだけでなく、事例から入って「臨床では何が起きているか」を材料に、授業を設計していただけるのではないかと思います。
佐々木:臨床の立場からは、看護管理学は医療安全も含めて「いまの時代の医療」を強く反映する領域だと感じます。だからこの教科書を手がかりに、各領域の先生方が「自分の専門領域なら、いまの時代をどう反映できるだろう」「学生が臨床に出た時に“習ったことと違う”と感じないために、何を言語化しておくべきだろう」を考える契機になるとよいと思っています。そういった「最新の社会」を知るという点では、新人看護師を迎え入れる管理者の方々にもぜひ読んでいただきたい内容でもあります。
さらに、臨床では、スペシャリストと管理者の意見のすれ違いはよくあります。スペシャリストはよいケアに集中したい、管理者はそれを組織で実現できる形に整えたい。看護管理の考え方を少し知っているだけで、意思決定の前提や「管理者が動ける条件」が見えて、両者の対話がしやすくなります。繰り返しになりますが、マネジメントはうまくいっている時ほど見えません。だからこそ「誰が何を考えて整えているのか」を知って気にかける視点も、基礎教育の中で育ててほしいと思います。
小玉:看護管理学は、各領域で追求している「よいケア(ベストプラクティス)」を、臨床でどうすればきちんと届き、持続できるかという“仕掛け”や背景を扱う、いわば「つなぐ学問」だと思っています。だからこそ本書の事例のように、各領域で働く看護師を起点に、組織がどう動き、どんな調整や条件が必要になるのかを考え、そこから理論へ橋渡しする、という流れで解説すると、非常に効果的なのではないかと思います。
奥:お二人がお話しくださったように、看護管理学は、各領域で積み上げてきた専門性で「臨床で患者さんにきちんと届けられる」ようにするための条件を考え、つなげていく科目だと思います。だからこそ本書では、事例を端緒に論点を見つけ、議論を組み立て、理論へ橋渡しできるように解説も含めて厚くしました。授業の入口を作り、学生の理解を“点”ではなく“線”にしていくための足場として、ぜひ活用していただければと思います。
(おわり)
奥 裕美(おく・ひろみ)
聖路加国際大学大学院看護学研究科 教授
1997年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業。聖路加国際病院に勤務するも、交代制勤務に体調を合わせることができず、後ろ髪を引かれる思いで臨床を離れる。「看護職が健康に働き続けられる環境をつくるには」を探求しようと同大学大学院修士課程に進学。修了後は同大学助手・助教として看護基礎教育に携わる。しかし教育や研究に必要な知識不足を痛感し博士課程へ進学。その間、日本看護協会にて夜勤・交代制勤務に関するガイドラインの制作やワーク・ライフ・バランス推進事業に携わる。2013年同課程修了。2014年より同大学に看護教育学特任准教授として再び勤務したのち、2020年より看護管理学教授として現職。
小玉 淑巨(こだま・よしみ)
北里大学看護学部 准教授
大学卒業後、東京大学医学部附属病院にて循環器内科、内科系ハイケアユニット、ICUに勤務し、看護師として臨床経験を積む。その後、東京医科歯科大学(現 東京科学大学)大学院保健衛生学研究科博士前期課程・後期課程を修了。昭和大学(現 昭和医科大学)保健医療学部看護学科にて講師として基礎看護学を担当したのち、2021年より北里大学看護学部看護システム学准教授に着任し、看護管理学を担当している。専門は、看護管理者のリーダーシップ、フォロワーシップ、組織変革に関する研究である。
佐々木 菜名代(ささき・ななよ)
浜松医科大学医学部附属病院 副病院長/看護部長
1988年愛知県立看護短期大学卒業後、名古屋第一赤十字病院に勤務。その後、安城更生病院勤務を経て、1995年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)3年次編入学。1997年に卒業後、三宿病院に勤務し、2002年聖路加看護大学大学院修士課程に進学。2004年に修了後、厚生労働省医政局看護課、三宿病院、川崎市立多摩病院に勤務し、看護師長、教育担当副部長、医療安全管理室副室長(医療安全管理者)を務めた。2014年には聖路加看護大学大学院博士課程を修了(看護管理学専攻)。2019年4月より現職。
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