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術後看護のシミュレーション演習LIVE配信レポート

術後看護のシミュレーション演習LIVE配信レポート

2022.09.01NurSHARE編集部

 東京医療保健大学和歌山看護学部成人看護学領域(担当:北得美佐子 教授)とNurSHARE編集部は2022年7月29日(金)、NurSHARE本会員を対象に、同学が行うシミュレーション演習のLIVE配信を共同企画 した(演習実施場所:日本赤十字社和歌山医療センター)。配信内容は、NurSHARE(以下、本サイト)の掲載記事「『Medi-EYE』を使用したシミュレーション演習:急性期看護援助論において」 において紹介されたシミュレーション演習の実践の様子であり、北得教授が進行・解説を務めた。本サイトにおけるウェビナーは初の開催となった。なお、配信冒頭の解説動画や演習に関する資料は、本サイトの【教材シェア】にて公開されている。
シミュレーション演習LIVE配信の説明動画 
シミュレーション演習LIVE配信の関連資料(スライド) 

 

企画の概要

 北得教授は、自身が立ち上げた看護教員を中心とする情報交換や勉強会などを行うコミュニティ「看護系ICT教育チーム」の活動の中で、自身も活用する教育用電子カルテ『Medi-EYE』*のコンテンツ開発にも携わってきた。今年4月にNurSHARE編集部が北得教授へのインタビューを行ったことを機に、同チームメンバーの執筆による連載「ICTを活用した講義・演習・代替実習-教育用電子カルテ『Medi-EYE』を用いて」を本サイトにてスタートさせた。
 今回のLIVE配信は、連載の打合せの中で、記事だけではなく実際の授業の様子をみてもらう方が読者に伝わるという北得教授の発案の元、せっかくであれば臨場感のあるLIVE配信にしようと計画したものである。同学がこれまで他校とのオンラインでの共同演習や共同カンファレンスの実践を積み重ねてきたこともあり、各方面の理解と協力が得られ実現できた。

*教育用模擬電子カルテのクラウドサービス。インターネット上で実際の電子カルテ画面に近い模擬カルテを閲覧することができるため、演習や代替実習において活用されている。

シミュレーション演習の概要

演習の場面

 本企画において配信するのは同学2年次前期の「急性期看護援助論」のシミュレーション演習。7月28日(木)と29日の2日間にわたって行い、演習の場面は、28日は腹腔鏡手術を受けた患者の帰室30分後の観察・アセスメント、29日は術後1日目の第一離床(術後最初の離床)である。事例には、同学がオリジナル作成し、Medi-EYEに登録した患者事例を用いた。

演習に向けた準備

 演習に向けた準備として、1ヵ月以上前に行った同科目の講義内で、学生たちに患者事例と「Medi-EYE電子カルテ事例ワークシート(リンク先教材シェアページを参照)」を配布した。手術や麻酔が身体に及ぼす影響、術式特有の合併症などの情報や、Medi-EYEから得た術前情報を基に術後の観察計画を立ててもらった。観察項目や手順、留意点や観察の根拠などのまとめは、事前課題として前日の午前中までに学習管理システム(LMS)上で提出してもらっている。看護の視点については講義中にグループワークも行い、レディネスを整えた。

このように事前にMedi-EYE事例から術前の情報収集・分析する課題を課している
 

演習の方法

 本演習は同学部2年生約100人を1クール25人とし、4クールに分けて実施する。4つのクールは午前・午後に2クールずつ、さらに同じ午前・午後の2クールも時間をずらして実施することで、密回避にもつながっている。
 1クールの学生は4~5人でグループとなり、グループ単位で各課題に取り組む。スキルラボ(演習室)でのシミュレーションは、1グループのメンバーがさらに2チームに分かれ(便宜上、先に演習をするチームから順にAチーム、Bチームと呼ぶ)、
   Aチームがシミュレーション
  →全員でデブリーフィング
  →Bチームがシミュレーション
  →Bチームによる実施報告
  →SA

(Student Assistant)からのフィードバック
の流れで行う。各段取りは制限時間が決まっており、時間の制約があることでメリハリが生まれている。 

シミュレーション演習の進め方


 スキルラボは4人部屋を3病室用意し、各病室2ベッドを使う。チームでシミュレーションを行うのは、対象学生が2年生と経験が浅いため、お互いに相談しあえる状況にして不安感を軽減し学びやすくするためだという。
 演習が終わったら、全グループが準備室に戻り、まずはグループごとに演習を振り返り、できたこととできなかったこと、気が付いたことや迷ったことなどを話し合い板書にまとめる。その後、発表・全体共有・意見交換を行う。

同学が実施した演習の特徴

 同学の演習の大きな特徴のひとつが、上級生がSA(Student Assistant)として参加することだ。SAは模擬患者を担当するほか、2年生の観察の状況や技術をチェックし、AチームとBチームの演習がそれぞれ終わるごとに、下級生へコメント、フィードバックを行う。
 SAはボランティアとして希望者を募集し、1コマ程度のオリエンテーションを受けてもらい準備する。同学部で作成した「ファシリテータガイド」や模擬患者マニュアル「患者なりきりガイド」を渡し、当日の進行やファシリテータの役割・ポイント、模擬患者としてのふるまい方などについて理解してもらうようにしているという。今回の演習では4年生15名、3年生20名が参加した。
 また、演習ではSAのほか5名の教員が加わって適宜進行などを行うが、教員からの声掛けはミニマムになるよう心がけ、学生(実施者とSA)が主体となって演習を進めるように仕向けているそうだ。 

ファシリテータガイド
 
患者情報および患者なりきりポイント(患者役へのガイド)

 

シミュレーション演習当日の様子

 LIVE配信当日のシミュレーション事例の患者情報と、学習目標・演習課題はそれぞれ以下の通りであった。

■患者情報
  • 胃がんで腹腔鏡による胃切除術を受けた患者
  • 術後1日目、NRS 3~4
  • 10時:体温37.9度、心拍88回/分、血圧124/66mmHg、呼吸数20回/分、SpO2 96%
  • 全身清拭を行う。体動時に痛みはあるが、ゆっくりと腰上げや体位の調整を行える。更衣後、歩行を行うことを説明、「動くと痛いかな…また薬使ってもらえますか?」と訴えあり、歩行前にアセリオ1000mg投与する。

■学習目標

(1)第一離床前~離床中・離床後に必要な観察項目を挙げることができる。
(2)第一離床後に必要な看護を実施することができる。
(3)実践した看護の報告を行うことができる。

■演習課題

①必要な観察を行い、術後1日目の第一離床(歩行)を実施してください。
②離床実施後、実施内容の報告を行ってください。

 

学生の演習をたくさんの聴講者が見守る

 LIVE配信したのは「急性期看護援助論」シミュレーション演習の4クールのうちの3クール目、事前アンケートで撮影可と回答した学生を集めたグループである。
 前日は学生たちにとって入学後初めてシミュレーション演習をする機会となり、29日は2回目。経験そのものは多くないが、前日の演習を踏まえて落ち着いて当日の演習に臨んだ。SAが演じる模擬患者を前に気を引き締めながらも、教員やSAの意識的な声掛けによりリラックスした状態で演習を開始した。

LIVE配信したのは午前・午後計4クールのうちの3クール目である


 学生たちは「なぜ事例患者に術後早期離床が必要なのか」を事前課題として考えている。当日模擬患者と対面した際は、まず課題としてまとめた術後早期離床の目的を患者に平易な言葉で分かりやすい説明を試みた。
 模擬患者の了承を得てバイタルサイン、息苦しさや疼痛、チアノーゼ、傷口からの出血の有無などの確認を実施したのち、事前学習に沿って第一離床の手順を進めた。患者の下肢をゆっくり動かす役割とカテーテルやドレーン、ルートなどの挿入物が引っかからないよう移動させる役割を分担したり、ひとりで模擬患者に端坐位を取らせることが難しい場合はもうひとりがすぐにヘルプとして加わるなどして、学生たちはペアで協力して熱心にシミュレーション演習に取り組んだ。
 デブリーフィングやフィードバックでは、「患者はバイタルと言われても何のことか分からないのでは」(観察側の学生)、「比較的若い患者だから、手厚すぎる援助は必要だっただろうか。逆にやれることを奪ってしまってADLの自立を損ねているのではないか」(SA)といった活発なディスカッションや的確なコメントがみられた。

 配信中は200人を超える視聴者が学生たちのシミュレーション演習風景を視聴した。成人看護学領域の演習であったが、配信中に行った投票結果によると成人看護学領域を中心に様々な領域の教員が聴講しており、看護教育全体におけるシミュレーション演習への注目度の高さがうかがえた。

シミュレーションの様子                デブリーフィングの様子
 
待機室での振り返りの様子          全体まとめ発表の様子
 

終始活発な質問が飛び交うLIVE配信に

 配信中はZoomウェビナーの「Q&A機能」で常時質問を受け付け、北得教授が進行・解説の合間に可能な限り回答した。
 「学生がこのような形で演習することに対して、臨床側はどのように評価しているのでしょうか」という問いに、北得教授は「とても好意的に受け入れてくれています」と回答。28日のシミュレーション演習にも実習先の臨床指導者が様子を見に来てくれたと話した。
 また、「SAが2年生にアドバイスする効果には、教員が指導する場合と比べてどのようなものがありますか?」との質問には、「自分たちもあと1、2年すると下級生にアドバイスできるようになれるんだ」と思えて学生のモチベーションが向上することを指摘した。北得教授はさらに、「教員が説明した時よりも、同じ学生であるSAが説明した時の方がよく覚えていることもあります」と語った。
 「録画はLIVE配信のためにのみに活用し、撮影した演習風景をこの後に使う機会はないのでしょうか?」と尋ねた視聴者には、「今回はLIVE配信用の撮影ですが、本学では普段からロールプレイなどを録画して学生同士で相互評価しています」と話し、日頃から録画・動画を活用した演習を行っていると説明した。
 このように演習やデブリーフィングの方法、学生の事前学習、SAの仕組み・効果、全体討議の方法等についての質問や感想が終始寄せられ、北得教授の明瞭な回答も相まって非常に活発な質問が飛び交う配信となった。
 なお、配信中に多く寄せられた質問や、回答できなかった質問について、回答をまとめているのでこちらを参照されたい。
 

LIVE配信の冒頭で流された解説動画の画面より

 

学生たちもシミュレーション演習に学びやすさを感じている

 同学部のシミュレーション演習は、モチベーションアップや理解度向上など、様々な理由で学生からも好評を得ている。
 演習を終えた学生たちは、「実習に出ていないから、模擬とはいえ患者に触れるのが初めてだった」と表情に緊張を残したが、「ふりでも痛みを訴える患者に対してどうすればいいか考える機会を持てて、とてもよかったと思う」「1日目の演習は全くうまくいかなかったが、2日目は反省を生かすことができ、シミュレーションの大事さを実感した」と笑顔で述べた。
 学生の中には「どのケースでどう対応するべきなのか事前に調べたり勉強したことを生かして、自分がどれだけできるか確かめられてよかった」と自信をつけた学生もおり、臨地実習を見据えたさらなる学びの促進が期待される。
 教育用模擬電子カルテ『Medi-EYE』から患者情報を得てシミュレーション演習に臨める点については、「電子カルテの情報からアセスメントの観点がある程度分かっていたから、そこから自分たちでどうすればいいのかさらに視点を広げていけた」という感想があった。学生たちに電子カルテで確認した事項を訪ねてみると、血液検査の結果や既往歴、身長や体重、病態、術前バイタルなどが挙がった。各種情報を見て「このような危険がある」「この情報はこう使うんだ」と考えたり、情報の使い方に関する理解が高まったりと、模擬電子カルテを通して実習前の準備が進められているようだ。

 今回演習を実施した学生たちは、臨床の現場をほとんど経験していない。そのような中であっても、綿密に計画されたシミュレーションと実臨床に近い模擬電子カルテの情報によって、臨地実習に向けて同学部が目指した「患者に関する情報の収集と意味づけ」や「患者の情報に基づく看護過程を経た思考・実践」の強化が達成されているものと思われる。
 

撮影・インタビューに協力してくださった学生のみなさま

 

意義のある“知の共有”

視聴者から寄せられた様々な感想

 配信終了後のアンケートでは、演習の流れや事前学習内容の緻密さ、演習における各フェーズ時間設定、フィードバックやデブリーフィング機会の設け方、学生の自己効力感や主体的に取り組む姿勢を高める教員やSAのかかわり方など、様々な観点からの感想が寄せられた。
 中でもSAそのものに関する注目度の高さがうかがえた。「少ない人数の教員だけで演習するより眼が行き届く」「身近な先輩の指導が頭に入りやすい」「対象学生だけでなく、SAの学びにもつながる」など、上級生のSAが下級生の演習に参加するメリットの大きさを感じたという意見が多数寄せられ、「自分の所属校でも導入を前向きに検討したい」という声もあった。
 アンケート全体として、「参考になった」という声や、他校のシミュレーション演習の様子を視聴する機会の貴重さや意義についての感想が非常に多く、各校が模索しながらシミュレーションに取り組み、参考となる情報を求めていることがうかがえた。

視聴者の声
  • 他校での取り組みを実際に見せてもらう貴重な機会だった。「シミュレーションを充実する必要性は感じているが、どのように変えればよいのか」と思っていたが、さまざまな実践のヒントを得ることができた。自校にいながらオンラインで拝聴できたこと、それも無料で…というのはありがたかった。
  • ライブ配信することによって、学生たちの自己効力感がさらに高まると思いました。ライブなので、生の授業を観ることが出来て、かなり参考になりました。
  • 今後も他校のシミュレーション演習のLIVEを拝見して参考にしたいと思います。当校も LIVE配信できるレベルまで向上することを目指して頑張ろうと思います。
(アンケート結果から抜粋し、表現を一部変更し掲載)
 

配信を振り返って

 当日、進行・解説を務めた北得教授、指導教員として現場の演習に立ち会った同学成人看護学の納谷助教に、配信の感想を寄せて頂いた。

北得教授
「先ずは、実習施設のご協力と、多くの方々のご参加に感謝いたします。適時質問をいただき回答しながら演習を進行できたことで、私自身もシミュレーション演習の視点や方法について沢山のヒントが得られ、貴重な経験となりました。また2年生・SAからも今回の演習に参加して得られた学びや後期以降の学習意欲が語られ、満足度や学修効果が高かったことが感じ取れます。登校制限がある中でも上級生・下級生の繋がりも持てたと思います。まだまだ課題や改善点は多々ありますが、今後も学生の声を聴き、他学の先生方や臨床指導者と情報交換しつつ、本学の学修環境や学生のレディネスなどを踏まえた、最も効果的な学修方法について探求したいと思います。本学ではSAの活用だけでなく、演習時に他施設の教員・看護師の参加や参観の受け入れ、他学部との合同カンファレンスなどを行っています。興味のある方は“看護系ICTコミュニティ” へご参加ください。」
納谷助教
「この度は、このような貴重な機会をいただき、また、多くの方々にもご参加いただき感謝いたします。教育用電子カルテを用いた事前の情報収集・アセスメント、SAによる模擬患者に加え、実際の病院環境の中でシミュレーション演習が行えたことで、学生たちは良い緊張感を保ちながら、より実践に近い環境で学ぶことができたのではないかと思います。また、SAとして参加した上級生が良いロールモデルとなり、これからの学習意欲にも繋がったのではないかと思います。ご参加いただいた方々から、多くのご意見・ご感想をいただくこともでき、私自身も大変貴重な経験・学びとなりました。今回の学びをもとに、評価・修正を行い、学生にとってより効果的な講義・演習が展開できるよう、努めていきたいと思います。」
 

おわりに

 同学のシミュレーション演習のスタイルは当初から確立されていたわけではなく、学生の反応を見ながら3年間試行錯誤して考えてきた方法だという。そして北得教授は「これからも外部の方々から様々な意見を集めてもっと良いものにしていきたい」と強い熱意を示す。
 NurSHAREにおいて、同学のご協力を頂きながら、「シミュレーション演習のLIVE配信」という“知の共有”を図る企画を開催できたことを大変嬉しく思っている。今後も看護教育に関する様々な情報を発信していきたいと考えている。そして、一方通行の発信だけでなく、ユーザー同士が感じたことや意見等を寄せ合い議論する、双方向性のあるプラットフォームとしていきたい。
 皆様がNurSHAREに知見をお寄せ頂くことで、看護教員同士がつながり、新たな看護教育の可能性がはじまり、看護教育の未来がひろがる、そんな場になることを願っている。

フリーイラスト

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