看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

日本国際看護学会 第6回学術集会/広めよう! 国際看護ティーチングメソッド

日本国際看護学会 第6回学術集会/広めよう! 国際看護ティーチングメソッド

2022.11.01NurSHARE編集部

  2022年9月18日、日本国際看護学会(森 淑江理事長、群馬大学名誉教授)の第6回学術集会(河原 宣子学術集会大会長、京都橘大学)がオンラインにて開催された。テーマを「広めよう! 国際看護ティーチングメソッド 」と定め、各種演題・ワークショップなどを通して参加者が国際看護の教育における多様な指導方法、学習内容について知見を共有した。
 主なプログラムは以下の通り。本レポートでは、この中から「基調講演」「教育講演」および「ワークショップ」の一部を紹介する。

【基調講演】
「広めよう! 国際看護ティーチングメソッド―教育は、創造だ―」
日本国際看護学会第6回学術集会大会長 河原 宣子(京都橘大学)

【教育講演】
「国際看護の教育:看護の原点を学ぶ」
司会:河原 宣子(京都橘大学)
講師:森 淑江(群馬大学名誉教授/国際協力機構青年海外協力隊事務局技術顧問/日本国際看護学会理事長)

【ワークショップ】
「国際看護ティーチングメソッドをシェアします Part1」
司会:マルティネス真喜子(京都橘大学)
発表者:那須ダグバ潤子(京都橘大学)
    近藤 曉子(東京医科歯科大学大学院)
    華 セイ(東京医科歯科大学大学院)
「国際看護ティーチングメソッドをシェアします Part2」
司会:マルティネス真貴子(京都橘大学)
発表者:竹下 夏美(京都橘大学)
    横山 詞果(滋賀県立大学)
    マルティネス真貴子(京都橘大学)

【教育活動・研修委員会企画】
「中国人看護師の事例から考える外国人看護師の教育支援」
司会:呉 小玉(京都光華女子大学)
   堀込 由紀(群馬パース大学)
話題提供者:鄒 佼佼(京都光華女子大学) 
      王 麗華(大東文化大学)
      小坂 晶巳(社会医療法人財団慈泉会相澤病院)

【研究委員会企画】
「日本国際看護学会員が創る国際看護 」
日本国際看護学会・研究委員会
司会:土谷 ちひろ(医療創生大学)
話題提供者:松永 早苗(神奈川県立保健福祉大学)
      桑野 紀子(大分県立看護科学大学)
      マルティネス真喜子(京都橘大学)

【交流会】
「コロナ禍での教育・研究活動を語り合おう」
司会:松永 早苗(神奈川県立保健福祉大学)
話題提供者:森口 真吾(株式会社T-ICU、集中ケア認定看護師)

※敬称略

 

基調講演「広めよう! 国際看護ティーチングメソッド―教育は、創造だ―」

 看護基礎教育における国際看護に関する学習は、【看護の統合と実践】領域に位置づけられており、「看護師国家試験出題基準 令和5年版」では【看護の統合と実践】における大項目「3. 国際化と看護」に、出題内容として示されている。すなわち、看護基礎教育において必須の学習内容となっており、どのように授業を展開していくかは非常に重要である。

 河原 宣子大会長は、国際看護において効果的な教育カリキュラムを設計する際に重要なインストラクショナルデザインの概念について解説を行った。「インストラクション」とは目的をもって学習を促進させるために行うことすべてを指し、その中にティーチング(誰かが学習者に向かって講義をしたり実践したりすること)を包含するという。 

 この概念を前提にカリキュラムを設計した例として、自身が所属する京都橘大学看護学部のカリキュラムを紹介した。同学部は「あらゆる環境において、歴史的・社会的・文化的に多様な背景を持った、生活を営む人々について考えられる力」を身につけることをディプロマポリシー(学位授与方針)の一つとして設定している。ディプロマポリシーには、「様々な環境で多様な生活を営む人々を理解するための基礎的な能力を養う」「多様な背景や価値観をもつ人々が生活する中で生じる課題に向き合う(対応する)能力を養う」というカリキュラムポリシー(教育課程の編成・実施方針)が紐づいており、国際看護学もその目標設定に沿う形で授業が実施されている。さらに実際に同学部の授業内で活用されているアクティブラーニング技法(AL技法)について紹介し、指導の中に盛り込むべき「書く/対話する/問題を解き合う/探求する」というポイントについて解説した。一方でAL技法はあくまで手段であり、「国際看護学の授業で何を伝えたいのか」をベースにもっておくことの重要性も強調した。

 講演終盤では国際看護学の教育がもつ創造性に触れた。「異文化看護を内包する国際看護では、『看護の原点』がより浮き彫りになる」という。それは実践現場だけでなく教育現場でも同様であり、「さまざまな文化背景を有する人々への看護とは?」といった問いを常にもち続けることが教育の創造と地続きになっているのである。新しい教育内容やAL技法のような教育方法を問い続けることで教員と学生・研修生の間で相互作用が生まれ、それがひいては国際看護学自体の発展につながると提言し講演を締めくくった。

教育講演「国際看護の教育:看護の原点を学ぶ」

 同学会理事長である森 淑江群馬大学名誉教授は、長年国際看護に携わってきた経験から得た知見として、国際看護の教育の現状および国際看護の基本的な概念について論じた。

 国際看護が看護基礎教育に取り入れられる契機となったのは1996年の保健師助産師看護師学校養成所指定規則の改正だという。ここでは、基礎看護学における留意点として「国際社会において、広い視野に基づき、看護師として諸外国との協力を考える内容にする」という項目が盛り込まれた。同じく1996年に日本国際看護学会の前身となる国際看護研究会が設立されており、この時期から「国際看護」という言葉およびその教育の重要性が認知され始めたという。ただ、現在も「国際看護を教えるためにはどのような内容を備えておくべきか、まだ定まった考えはない」とし、今一度、国際看護の基本的な概念を考えることが必要であると述べた。

 看護は対象の生活に関わる分野であり、生活は文化と切り離すことはできない。生活様式はその国や地域の地理・気象的条件のほか経済、宗教、教育など社会を規定するさまざまな事象の影響を受けている。上記のような国・地域の特徴・背景を考慮して実施される看護を考えるのが国際看護という分野であり、各対象に合わせて適用するという点では小児看護・老年看護などと同じで国際看護は決して特殊な概念ではないと森名誉教授は述べた。また、このような国際看護の視点は国際協力だけでなく、在日外国人への看護や地域・在宅看護など日本国内でも大いに生かされるという。日本国内でも地域や家庭によって生活条件は全く異なる。各地域・家庭において行う看護の場合は、医療機関での看護以上に看護対象の背景を理解しそこに適応していかなくてはならない。国際看護は国際看護協力において注目されることが多く、国内で看護に従事する場合は関わりがないと誤解されやすいが、対象の生活を理解して働きかけるという点ではあらゆる看護分野に応用が効き、看護の原点を学べる分野といえるのである。

 そのうえで森名誉教授は国際看護学をさまざまな看護分野の中で教育する方法として、異文化環境での活動を想定した内容や異文化体験の演習を取り入れる方法などを提示し(下図)、実際に自身が行っていた授業を紹介した。そこでは、まず学生をいくつかのグループに分け、各グループに同じゲームを実施させる。次に、各グループ一人ずつ入れ替えをして再度ゲームを実施させる。すると、入れ替わった一人だけがルールが理解できずに困ってしまい、他のメンバーはその一人をサポートしなくてはならなくなる。実は、講師から教えられていたルールがグループごとにわずかに違っているのだ。これは在日外国人が日本に来て経験する状況と似ており、異なった規範をもつ少数の他者をどう受け入れていくか体験できる演習になるという。

既存の科目に国際看護学を取り入れる方法
 

ワークショップ「国際看護ティーチングメソッドをシェアします」

 ワークショップでは複数の教員が実際に行っている国際看護の講義を紹介し、そのティーチングメソッドを共有する場となった。以下、京都橘大学の那須ダグバ潤子准教授によるワークショップ「国際看護は海外の話? 教員と学生がともに経験し考える国際看護」を紹介する。

 那須ダグバ准教授が重要視しているティーチングメソッドは3つ。①世界の問題を身近なものにすること、②教員の世界を疑似体験すること、③常に双方向のやりとりをすることだという。まずは講義実演として、「世界の多様性と日本」および「外国人として生きる―国籍について考える」の講義を10分間実施した。この講義では日本における外国人の定義や外国人として日本で生きることの不自由さ(閉鎖的な空気や入国管理局の問題)について述べ、マイノリティである在日外国人を看護職という立場からどう考えるべきかという問題に触れる。学生にはディスカッションや講義のフィードバックを通して「あなたが考える『外国人』とはどのようなものか」「外国人はどんな特徴があるのか」といった問いを投げかけ、自分の頭で考えてもらうようにしているという。講義の評価はいくつかの設問にGoogle Formsで回答してもらうことで行っている。

 最後に、講義内で学生に送っているメッセージについても紹介し「誰が看護を提供するのか、誰が看護を受けるのか」を学生には考えてほしいと話した(下図)。日本国内で看護を考える時、看護の提供者は主に日本国籍をもつ看護師となる。だが、日本国籍をもつ看護師も日本国外では外国籍として扱われる。立場は見る角度によって変わり自分自身も当事者になりうる、だからこそ「全ての人を対象にした看護」が重要だと伝えているという。

立場は見る角度によって変わり、自分自身も当事者になりうる
 

おわりに

 紹介した演題以外にも、さまざまな立場から国際看護学の魅力およびその効果的な教育方法を伝える多様なプログラムが行われた。参加者は学術集会全体を通して、自身が国際看護を指導する際の大きなヒントを持ち帰ることができたのではないだろうか。
 なお、次回第7回学術集会は大会長を齋藤 恵子准教授(埼玉県立大学)が務め、テーマを「多文化共生推進における看護の役割」と定めて2023年11月18日(土)に開催予定である。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。