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看護教員のメンタルヘルスを考える——経験の浅い教員への支援の視点から

看護教員のメンタルヘルスを考える——経験の浅い教員への支援の視点から

2026.05.08福永 ひとみ(東京純心大学看護学部 教授)

はじめに

 看護教員として長く教育に携わる中で、私は「忙しい」という言葉だけでは説明しきれない「疲労感」を何度も経験してきました。授業準備、実習調整、学生対応、会議、研究活動と、一日の業務は細切れで、常に頭を切り替えつつ、積み重ねている感覚があります。臨床看護師としての経験を経て教員となり、さらに年月を重ねる中で、看護教員のしんどさは形を変えながら持続してきたように思います。定年間近となった今、あらためてこのテーマに向き合うようになりました。
 看護教員の職業性ストレスについては、業務過多や役割葛藤、対人関係の負担などが指摘されており、バーンアウトとの関連も報告されています。本稿では、メンタルヘルスを「心理的・社会的に良好な適応状態」として捉え、これまでの教育経験と自身の研究知見をふまえながら、とくに経験の浅い教員への支援の視点から考えてみたいと思います。

「看護教員」という職業には、なぜ疲労感がつきものなのか

看護教員の仕事にひそむ、見えにくい職業性ストレス

 病棟看護師のストレスは、夜勤や急変対応、生命への直接的責任など、身体的かつ即時的な負荷が大きい点が特徴です。一方、看護教員のストレスは慢性的で、終わりが見えにくい点に特徴があります。この終わりのなさが、「心理的負担」を蓄積させる要因になっていると考えられます。また、看護教員の仕事は、教育・実習指導・研究・学内運営と多岐にわたります。そんな中、たとえば授業資料を作成している途中で学生対応が入り、次に実習施設からの連絡が来て、その後に会議が続くといったように、集中が分断される働き方が常態化しています。さらにその量も多く、看護教員の多くは「プライベートにまで及ぶ膨大な業務量やメールによる対応」を抱えているのではないでしょうか。

 とくに実習指導では、学生の学びを支えるだけでなく、患者の安全や実習先との関係性にも配慮する必要があります。一つひとつの判断には大きな責任が伴いますが、その判断に伴う負担は外からは見えにくく、評価されにくい傾向があります。このような状況は、仕事上の要求度(仕事の負担、責任など)、仕事のコントロール感(労働者の裁量権や自由度)、職場における上司や同僚の支援の有無(職場の人間関係)の3要因によって生じる心身の不調や健康問題といった『職業性ストレス』1)の概念からも説明可能であり、看護教員の仕事は「見えにくい負担」が蓄積しやすい構造にあるといえます。とくに「仕事の調整・コントロールができない」状況にある人、すなわち経験の浅い看護教員は、「疲労感」をはじめとする心身ストレス反応が生じるリスクが高いといえます。

「看護師」が「看護教員」になるとは――職業的アイデンティティ変容の必要性

 看護教員のメンタルヘルスを考えるうえで、職業的アイデンティティ(職業を通して自覚される私)の視点は欠かせません。筆者は、「『看護師』が『教員』になるということは、看護師のキャリアアップの一部ではあるが、『教員』という新たな職業に転職するのだという意識の転換が必要であり、そのうえで看護を教授する『教員』として『看護師』について学び続けることが必要」2)と考えています。そして、看護教員が『看護師』と『教育者』という二つの役割を併せ持つことによる職業的アイデンティティの変容が、職業性ストレスに影響する可能性を自身の研究から示しました。
 さらに、2019年には「看護教員の基礎となる職業的アイデンティティの構成成分は『看護教員である自分に対する満足』の程度で、これに『前職である看護職としての自分に対する肯定』と『現職である看護教員としての自分に対する肯定』が付加されており、前職と現職に対するアイデンティティが共存していた」「看護教員の職業性ストレスのコントロールに際しては、現職である自分に対する満足の程度を考慮に入れることが有用」3)という研究結果を示しました。

看護教員の「しんどさ」を軽減するには

 ここからは、前述してきた看護教員特有の疲労感やしんどさ、負担感を軽くするために「周囲はどのようなことができるのか」という視点で、私の実践例も交えながら考えてみます。

【実践例①】経験の浅い看護教員の「しんどさ」が表面化したとき

 ある経験の浅い教員が、実習期間中に体調を崩しがちになったことがありました。業務内容を確認すると、複数の病棟を同時に担当し、学業上指導を要する学生と態度面で指導を要する学生への対応や、記録確認を一人で抱え込んでいる状況でした。その教員は「自分が慣れていないだけです」と話していました。そこで、実習指導を複数体制に切り替え、振り返りの時間を確保しました。さらに、その教員に「あなたの判断を他の教員に共有してもよいよ」というメッセージを伝えたことで、徐々に負担感が軽減されていきました。

【実践例②】「弱音を出してよい」空間をつくる

 別の場面では、会議の最後に「最近、実習指導で困ったこと」を共有する時間を設けたことがあります。最初は発言が少なかったものの、経験を重ねた教員が自らの戸惑いや試行錯誤について語ることで、経験の浅い教員も徐々に言葉を発するようになりました。その結果、「ベテランの先生でも迷うことがあることを知って安心しました。困ったことを言っても聴いてもらえて、一緒に考えてもらえてよかったです」と話していました。このような日常的なかかわりは、ソーシャルサポートとして機能し、職業性ストレスの緩衝要因となることが知られています。制度だけでなく、日々のコミュニケーションのあり方がメンタルヘルスに影響することを実感した出来事でした。

世代をつなぐ支援の必要性――管理職や先輩教員に求められるまなざしと環境づくり

 経験の浅い看護教員のメンタルヘルス対策を、個人の努力に委ねることには限界があります。筆者は組織的な支援体制の整備が不可欠だと指摘してきました。たとえば、メンター制度の導入や実習指導体制の見直し、業務分担の明確化は、実行可能な支援策といえます。同時に、経験を重ねた教員が、経験の浅い教員に「迷ってもよい」「悩みを共有してもよい」という姿勢を示すことも重要です。
 看護教員のメンタルヘルスは、個々の努力だけで維持できるものではなく、組織の構造や文化に大きく影響されます。たとえば、業務配分が形式的には均等であっても、経験の浅い教員にとっては過重となっている場合があります。また、「相談してよい」とされていても、実際には声を上げにくい雰囲気が存在することもあります。
 職場の支援体制が職業性ストレスの緩衝要因となることは、これまでの研究知見とも一致しています。管理職には、業務の実態を丁寧に把握し、小さな変化に気づき、安心して立ち止まれる環境を意図的に整えることが求められると考えます。

おわりに

 看護教員のメンタルヘルスは、個人の問題ではなく、世代を超えて引き継がれていく教育文化の課題です。定年間近となった筆者は今、経験の浅い教員が安心して悩み、成長できる環境を整えることが、これからの看護教育を支える基盤になると感じています。
 筆者が働く教育機関も、日々の授業準備、学生指導、実習施設との調整、教育評価、組織運営、地域貢献などに追われ、時間を絞り出して少しだけ研究活動という現状です。気がつくと自分のことで精いっぱいになっています。しかし、筆者の職業性ストレスチェックの結果は「良好」です。これは、『看護教員としての自分に対する満足』と『看護教員としての自分に対する肯定』を維持していることと、「疲れた」と言い合える同僚や仲間がいるからだと感じています。

 あなたの職場では、経験の浅い教員が「疲れた、しんどい」と言える雰囲気があるでしょうか。そして、経験を重ねた教員は、その声を受け止められているでしょうか。
 今後は、看護教員のメンタルヘルスを支える具体的方策について、実証的検討をさらに重ねていくことが急務と考えます。

引用文献
1)川上憲人,原谷隆史:職場のストレス対策,職業性ストレスの健康影響. 産業医学ジャーナル 22(5):51, 1999
2)福永ひとみ:職業的アイデンティティと職業性ストレス-看護教員のメンタルヘルス対策に向けて- 看護教育 59(3):170-175, 2018 
3)福永ひとみ,吉田浩子,島田凉子: 職業性ストレスと職業的アイデンティティの関連 ―看護教員を対象とした質問紙調査結果から―. 心身健康科学 15(2):82-93, 2019

福永 ひとみ

東京純心大学看護学部 教授

ふくなが・ひとみ/神奈川県立看護教育大学校付属看護専門学校卒業後、同県立芹香院、がんセンターで看護師として勤務。北里大学大学院修士課程修了(精神看護学修士),、人間総合科学大学大学院博士課程修了(心身健康科学博士)。同県立平塚看護専門学校、山梨県立大学看護学部、川崎市立看護短期大学で専任教員として勤務し、2020年8月より現職。休日はスポーツジムでの運動や、娘と犬との散歩を楽しむ。

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